Interview 一緒に考えよう!業界のミライ

“働きたい”という覚悟が日本の建設業を支える

外国人材と築く建築の未来
少子高齢化の影響により深刻な人手不足に直面している日本の建設業界。建設現場で働く職人のうち55歳以上の割合はすでに3割を超え、10年以内に多くが引退すると予測される。 こうしたなか、日本の建設業界を支えている大きな柱が外国人材である。彼らが就業先として日本を選び、安心して働けるよう受け入れを推進する一般社団法人建設技能人材機構(以下、JAC※1)の理事長・三野輪賢二氏に、その取り組みについて話を聞いた。

どのような経緯で JACは創設されたのでしょうか?

私たちJACは、在留資格「特定技能」が導入された2019年4月に設立されました。建設業界では20年以上前から外国人技能実習生の受け入れが始まり、現在も多くの方々が現場で活躍しています。しかし、技能実習制度では賃金や職場環境について多くの問題が報告され、特に建設業界における課題が顕著でした。こうした問題を受け、政府は外国人労働者が適切な環境で就労できる制度の整備に着手しました。そこで誕生した新制度が「特定技能」です。
JACは、建設分野における特定技能外国人の適正かつ円滑な受け入れを推進するため、ゼネコン団体や専門工事業団体が中心となって出資・設立されました。

(写真:一般社団法人建設技能人材機構 理事長 三野輪賢二 氏
大学で建築を学び、卒業後、大手ゼネコンを経て、現在は三成建設株式会社の代表取締役、一般社団法人日本型枠工事業協会会長)

技能実習と特定技能の違いはなんでしょうか? また、特定技能の資格の取得方法と 取得状況について教えてください。

 しばしば混同される技能実習と特定技能ですが、それぞれ制度の目的や運用方針は大きく異なります。技能実習は、外国人が日本で技術を習得し母国で活用することを目的とした国際協力制度です。一方、特定技能は、日本国内の人手不足を補うために外国人労働者を受け入れる制度です。
 特定技能1号の取得には2つのルートがあり、技能実習等経験者か未経験者かによって変わってきます。1つ目は技能実習等経験者であり、技能実習2号(2年10カ月以上)を良好に修了した場合、同じ分野であれば、試験なしで特定技能1号への移行が可能です。2つ目は技能実習等未経験者であるが特定技能1号評価と日本語能力試験に合格している場合です。
(写真:専門工事団体による技能訓練の様子 提供:JAC)
 ただし、長期的に日本で働くには特定技能2号への移行が必要で、そのためには評価試験に合格しなければなりません。試験はすべて日本語で行われます。そのため、日本語を母国語としない外国人労働者にとっては、その点が難しく感じられるようです。
 特定技能で来日している外国人労働者は約28万3,000人(2024年12月時点) 。出身国は、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマーなどが上位を占めています。このうち、建設分野で働いているのは約4万人で、分野別では4番目の多さです。なお、建設業全体の就業者は約300万人で、そのうち外国人材は約11万人となっており、特定技能に限ると全体の約1%ですが、月に1,000人以上のペースで増加を続けています。また、2019年度当初※2は4万人と設定した受け入れ見込数の上限を2024年度※3からは8万人に引き上げており、人手不足を背景に、更なる拡大が期待されています。

彼らは数ある国のなかから なぜ日本を選んでいると思いますか?

外国人が日本を就業先に選ぶ背景には、他国との制度の違いや地理的条件、文化的背景など複数の要因があります。例えばEU圏では国ごとに入国制度や労働法が異なり、毎年のように制度が変わる国もあるため、送り出し機関にとって書類作成や対応の負担が大きく、人材移動が難しいのが現状です。また、アジア諸国から欧米など遠方への渡航は距離・費用面で大きなハードルです。この点、日本は20年以上にわたり技能実習制度を継続的に運用しており、受け入れ実績と制度も安定しています。さらに、アジア諸国との文化的親和性もあります。日本は仏教国として宗教観や価値観に共通点が多く、送り出し機関や候補者にとって安心できる就労先なのです。これらの要素が重なり、日本は「送り出しやすく、選ばれやすい国」として一定の信頼を得ています。
しかし一方で、労働環境の整備において、日本は欧米諸国に比べ遅れをとっています。建設業界での外国人労働者の受け入れ環境を視察すると、どの国でも建設業が若年層に人気がない点は世界的な課題でした。ただ欧米ではスキルを習得すれば高収入が得られる環境が整いつつあり、アメリカでは建設業の給与が小学校教員を上回ったことで、教員から建設業への転職の事例も報告されています。これは日本では見られない事例で、労働環境における大きな差を感じました。日本がこのまま改善されなければ、外国人労働者にとって魅力的でなくなる可能性があるでしょう。

次号150号では、三野輪氏に伺った現場で実際に働く外国人労働者の印象や、JACによる支援の具体策について掲載予定。
特定技能外国人と共に働く現場(新妻鋼業株式会社) 提供:JAC
※1 JAC:Japan Association for Construction Human Resources
※2 法務省「建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(令和4年8月30日一部改訂)」別紙6より
※3 法務省「建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(令和5年6月9日一部改訂)」別紙4より