Daichi Report

電動化の更なる進化

建設業界が待ち望んだリチウムイオンバッテリー搭載の電動ショベルがいよいよ始動!

カーボンニュートラルに向けた世界の動きは年々加速している。コマツでは以前より環境に配慮した建設機械の製造に積極的に取り組んでおり、2008年には世界初となるハイブリッド油圧ショベル「PC200‐8E0」を発売、その後も様々な技術革新を遂げてきた。そして、2023年には業界初となるリチウムイオンバッテリーを搭載した20tクラスの電動ショベル「PC200LCE-11」の市場導入を実現。開発に関わった大阪工場のスタッフに、その開発の道のりを聞いた。
  • 開発本部車両第二開発センタ
    環境商品開発グループ
    グループマネージャ
    永原拓巳

    ※所属部署は取材当時のものです
  • 開発本部車両第二開発センタ
    環境商品開発グループ
    シニアエキスパートエンジニア
    山口昌保
  • 開発本部電動化開発センタ
    第三開発グループ
    技師
    山中真先
  • 大阪工場管理部
    サイマル推進課
    主務
    松田和也


業界に先駆けて20tクラスの電動ショベルを開発

コマツは、ハイブリッド型油圧ショベルの開発など油圧ショベルの電動化に取り組んできました。2020年にはバッテリー駆動式ミニショベル「PC30E-5」を開発。そして、2021年には中小型の電動ショベルの実証実験(PoC)を実施し、2023年に業界初となる20tクラスの電動ショベル「PC200LCE-11」を開発しました。
PC200LCE-11はバッテリー駆動式のため現場内での排ガスはゼロ。大容量リチウムイオンバッテリーにより長時間稼働が可能。エンジン駆動式と比較しても遜色ないパワーを発揮し、しかも騒音や振動は格段に少なくなっています。環境に優しいだけでなく快適な作業環境を実現する、画期的な電動ショベルです。
欧州と比較すると電気自動車の普及もまだまだという状況ですが、私たちは建設機械製造のリーディングカンパニーとして「普及してからでは遅い」という意識で、業界に先駆けて研究開発を進めています。

(写真:株式会社タケエイの川崎リサイクルセンターで稼働しているPC200LCE-11)
※導入状況などは「Gemba ディスカバリー」で紹介しています。


安全を最優先しながらの開発

開発するうえで課題となったのはリチウムイオンバッテリーの取り扱いです。リチウムイオンバッテリーはエネルギー密度が高くコンパクトで高出力という特徴がありますので、フル電動化には欠かせない重要な要素です。ところが、高電圧回路は、適切な対応をとらないと感電の危険と隣り合わせとなります。車両第二開発センタ環境商品開発グループシニアエキスパートエンジニアの山口(電気主任技術者の資格を保持)指揮のもと、ハイブリッドの主要コンポーネントを開発してきた開発本部電動化開発センタと協力しながら、徹底した安全対策が講じられました。
そして、開発に関わるすべての技術者は国が定める「電気自動車等の整備業務に係る特別教育」を受講し、高い安全意識で開発を進めました。製品としてお客さまのもとに届けられるわけですから、開発時はもちろんのこと製品としても十分に安全でなければなりません。安全は何よりも優先され、開発するうえでの重要なテーマです。

先進の海外メーカーとの協業

今回採用されたリチウムイオンバッテリーは、商用車両に実績のあるアメリカのバッテリーメーカーのものです。2021年より共同開発を進めましたが、ちょうどコロナ禍と重なってしまい、現地に行って打ち合わせることができませんでした。直接のやり取りができないため、思うように開発が進捗せず、もどかしく感じたこともありました。また、海外メーカーとは商慣習や文化が異なるため、やり取りも大変でした。

試作を何度も重ね生産工程を整備

前例のない20tクラスの電動ショベルということで、生産においてもさまざまな課題がありました。ある程度のパーツは、ベースとなるエンジン駆動式の油圧ショベルのものを利用できますが、主要コンポーネントやバッテリー部分は新規の開発となります。生産と開発の間で協議を重ね、試作車を何度もつくり、精度を高めながら、新しい生産工程を整備していきました。また、リチウムイオンバッテリーは危険物の扱いとなるため規制が多く、輸送する際には各省庁に確認を取りながら慎重に進めました。

将来的に電動コンポーネントの内製化を目指す

私たちは今回のPC200LCE-11を第一世代と位置付け、レンタル製品として市場導入しています。今後は、稼働時間の長時間化や使い勝手の向上など、お客さまからのフィードバックを反映して、第二世代となる製品を開発し、販売展開していく予定です。バッテリーやモーターなど外部のパートナーの協力による部分が多くありますが、今後は内製化を検討しています。内製化が実現すればコスト削減や品質の更なる向上が期待できます。

電動化が建設現場を大きく変える

現在の電動ショベルは電源の確保などのため屋内での稼働がメインとなっています。これを屋外となる一般土木の現場で稼働できるように研究開発を進めているところです。また、安全性と効率性の向上を目指す先には、無人運転がありますが、近い将来の実現に向けて歩みを進めています。
コマツ大阪工場

総面積約545,000㎡の敷地に約2,800人の従業員が働いている。主に中大型の油圧ショベルやブルドーザーなどの建機を生産しており、グループ全体のマザー工場に位置付けられる。「生産」「研究」「開発」 の3部門が一体となり、品質と信頼性の高い製品を生産している。