Interview 一緒に考えよう!業界のミライ

「技術の塊」といえる建設業の“技”を 継承していくために

外国人材と築く建設の未来
前号149号では、建設業における人手不足の現状と、外国人材受け入れ制度の変遷、そして日本が就業先として選ばれる理由について紹介した。今号では、実際に日本で働く外国人材の姿や、言語や文化の壁を乗り越えるための支援策、現場での印象的なエピソードを、前号に続き一般社団法人建設技能人材機構(以下、JAC※1)の理事長・三野輪賢二氏に伺った。

実際に働いている外国人労働者の 働きぶりはどうですか?

 個人差はありますが、総じて真面目に働く方が多いのが特徴です。特定技能の取得のために多くのハードルを乗り越えて日本に来ていますし、技能実習生も「働かなければ食べられない」という覚悟を持っています。そうした背景があるから、しっかり働いてくれるのだと思います。
 そして、宗教や文化の違いが業務に支障をきたすことは、ほとんどありません。例えば、インドネシアの方は建設業に2万5,000人も来ていて、その多くはイスラム教徒ですが、礼拝に関するトラブルは一件も聞いたことがありません。それは、本人たちでうまく時間や場所を調整していると聞きます。食事も同様で、かつてはハラル対応に不安の声もありましたが、今では個々人で対応されています。すでに外国人労働者のコミュニティで情報交換がなされていたりするので、受け入れる側としてもあまり心配しなくて大丈夫です。
 また、受け入れる企業側もコミュニケーションを工夫していると聞いています。とある企業での話ですが、早朝開始の現場では、朝食を抜いて来る作業員が多かったそうで、同社の社長は「せめて温かいものを」と、味噌汁を用意し、現場へ向かう道中で作業員全員に一杯ずつ配ったそうです。すると、そこにいた方が感動して泣き出したというのです。この味噌汁習慣を取り入れて以降、作業員全員が遅刻しなくなったそうです。こうしたちょっとした心配りが、故郷から遠く離れた日本で働く外国人労働者を含む、現場の人たちに安心感を生み出したのではないかと思っています。
(写真:一般社団法人建設技能人材機構 理事長 三野輪賢二 氏
大学で建築を学び、卒業後、大手ゼネコンを経て、現在は三成建設株式会社の代表取締役、一般社団法人日本型枠工事業協会会長)

外国人労働者にとって一番の課題はなんでしょうか?また、その課題に対して、JACではどのような 取り組みをされていますか?

 やはり外国人労働者にとってハードルが高いのは日本語だと思います。特に「話す」だけでなく「読み書き」の能力が大きな課題です。例えば、技能検定1級の試験問題にはふりがなが振られていないのです。日本人が小学校で6年間かけて覚えるような漢字を短期間で習得する必要があるため、外国人にとっては非常に厳しい条件です。仕事の技術に関しては申し分なく、現場でのコミュニケーションが可能であっても、言語の壁は依然として大きな難所だといえます。
 このように建設業で必要な資格の取得試験において、実技はできても漢字が読めず筆記試験に苦戦するケースが多々ありました。そこでJACでは、日本語力の底上げを目的に、日常会話から建設現場の専門用語までを学べる無料講座を多数用意しています。また、安全教育に関する資格取得についても、フルハーネスや足場の組立て、フォークリフトなどの講座を無料で受講できる体制を整えました。さらに、一時帰国支援金の増額、CCUS※2の登録費用の無償化、万が一の労災時には独自の補償制度を設けるなど、現場で安心して働ける環境の整備にも力を入れています。これらはすべて、来日してくれた方々に長く快適に働いてもらうための取り組みです。まだあまり知られていない制度も多いので、ぜひ一度JACのホームページをのぞいてもらえると嬉しいです。
株式会社手塚工務店 提供:JAC
株式会社⼭之内⼯建 提供:JAC

外国人労働者にとって「働きやすい現場」について教えてください。

 特別な対応を考えるのではなく、外国人も日本人と同じように個室やWi-Fiといった基本的な生活環境を整えることが大切です。文化や言語の違いを理由に敬遠されることもありますが、丁寧な対応を行えば一緒に働くうえで大きな支障にはなりません。 建設業はゼネコンだけでなく、専門工事業の技術も含めた「技術の塊」です。こうした技術が継承されなければ、現場の仕事自体が失われてしまいます。私たちJACは、そうした技術の中核を担うわけではありませんが、人材面での一時的な補完という役割を通じて、これからも日本の建設業を支えていきます。
(写真:株式会社山之内工建 提供:JAC)
外国人材の受け入れは、現場の即戦力としての活用にとどまらず、日本の建設業が今後も成長・継続していくために不可欠な要素である。制度や環境整備の努力を重ねることで、外国人材と共に築く持続可能な業界の未来が見えてくるのではないだろうか。
※1 JAC:Japan Association for Construction Human Resources
※2 建設キャリアアップシステム(CCUS:Construction Career Up System)