Interview 一緒に考えよう!業界のミライ

女性の働きやすさから始まる「皆の働きやすさ」

土木建設業界で女性人材を獲得・定着させるには
改正男女雇用機会均等法が1999年に施行されて以来、女性人材は少しずつ増加しているものの、依然として男性が多い土木建設業界。そのなかで「土木女子※」の第一人者として活躍し、長年、女性人材の活躍・定着支援を行ってきた鹿島建設株式会社の須田久美子氏によると、女性が働きやすい環境を実現することが、業界全体を盛り上げる最善の近道だという。
※土木系の仕事や学問に携わる女性のこと。土木工事の建設現場では、工事全体を指揮する技術者(現場監督)や専門的な作業を行う技能者などを含む。建設業だけでなく、建設コンサルタント、 教育・研究機関、官公庁、公益民間などを包括した土木業界で働く女性を指し、土木を学ぶ女子学生を含む

女性人材の獲得および離職率を下げるために企業ができることは何でしょうか?

女性が極端に少ない建設現場の中で働く女性の技術者・技能者の意見をどのように汲み取り、柔軟な現場運営や企業運営につなげていくかということではないかと思います。
現場で孤軍奮闘している女性技術者の悩みや不安を一人ひとり聞いていくと、共通していることもあれば、全く違うこともあります。また、今は困っていなくても将来のライフイベントを想像して漠然とした不安に悩んでしまって、モチベーションが下がり離職を考える女性もいます。女性人材が極端に少ない土木建設の現場では、そういった個々人の悩みや不安に寄り添って解決策の選択肢を示す先輩社員の役割が重要です。
そこで鹿島建設の土木部門では2014年から女性総合職を対象に「メンター制度」を試行しました。違う現場の先輩女性が若手女性の現場を訪問し、メンターとして面談を行うことを会社の制度にすることで、業務の一環として若手支援ができる制度です。メンターになる社員はメンタリングスキルを磨く研修を受けたうえで面談を行います。振り返りアンケートをもとに制度を随時見直す仕組みとしたことで、若手女性/先輩女性の双方が学び合い、成長を実感できる制度になりました。2020年からは性別に関わらず勤続13年以下の土木系従業員が利用できる制度として本格運用しています。
(写真:仮設トイレの臭い軽減・防虫対策の現場実証実験で行った鹿島たんぽぽ巡回)
メンター制度に取り組むなかで、現場を働きやすくするためには、現場所長に女性目線の提案ができる仕組みがあるとよい、というアイデアがでてきました。その案をもとに、土木だけでなく土木・建築すべての現場で女性の目線を職場づくりに活かす「鹿島たんぽぽ活動」を2015年から展開しています。この活動は、女性が極端に少ない現場だからこそ、女性たちが元請けや協力会社の垣根を超えてチームをつくり、現場所長が率先して現場で働く女性の意見に耳を傾け、現場環境改善につながる取り組みを推進しようというものです。土木部門では活動の好事例を集約し、「鹿島たんぽぽ活動推進のための現場環境改善の手引き」(以下、「手引き」と略記)を社内公開しています。
重要なのは、男女関係なく共通の基準を持ち、皆が同じ方向を向いて互いにサポートできるようになることです。そういった共通認識や行動基準をまとめて「手引き」としました。全社員に対してきちんと教育することで、特別扱いではなく、男女の特性の違いを踏まえた柔軟な現場運営が可能となり、多様な人材が「働きやすさ」と「働きがい」とを両立できる職場づくりにつながると思うのです。
(写真:快適トイレ: 国土交通省が男女共に快適に使用できる仮設トイレの総称として標準仕様を設定。建設現場への導入を推進中。フラワートイレは建設現場で女性が安心して使える女性専用トイレで「快適トイレ」の個別事例の一つ)
フラワートイレ内装
フラワートイレ外装

建設産業女性定着支援ネットワークが行っている取り組みは何ですか?

 前述のメンター制度のようなつながりが社内だけでなく社外にも広がっていけば、より情報共有が進み、建設産業における女性人材の定着に効果を発揮できると考えています。現場に従事した約10年の期間は、土木技術者としての夢が叶った充実した期間でしたが、一方では、鹿島建設の女性だけが働きやすくなっても現場は働きやすくならない、現場で働くあらゆる職種の女性が働きやすくならないとダメだと実感し、課題が明らかになった期間でもありました。そんな経験から建設産業で働く女性をつなげる必要があると思い、そしてそれに共感してくれる女性の声がたくさんありましたので、建設産業女性定着支援ネットワーク(以下、NW)の設立に至りました。
設立当初から幹事長として建設産業で働く女性を応援する取り組みを全国へ行き渡らせることができるように活動しています。NWでは、建設産業における女性活躍推進に向けた新計画策定委員会の構成団体として参画し、国土交通省および建設業団体と共同で「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」(令和2年計画)を策定し、建設産業界の女性活躍・定着に関するさまざまな取り組みを行っています。
全国大会やブロック意見交換会を開催し、団体間の交流や課題解決に向けた意見交換を実施して、働き続けるための環境づくりや、女性に選ばれる建設産業を目指す取り組み、NWの登録団体を47都道府県すべてに行き渡らせるための活動などを全国規模で展開しています。また、建設産業女性定着支援ウェブを整備し、登録団体の活動内容の共有や団体間連携の促進、女性技術者・技能者のキャリア支援や女性定着に関する取り組み事例などの情報共有を行っています。
(写真:国土交通大臣への令和2年計画手交)

女性の働きやすさを追求することは業界全体にどういった影響があると思いますか?

女性が就業しやすい業界は男女問わず誰もが働きやすい業界を意味し、業界の活性化にもつながります。例えば、柔軟な働き方や仕事と家庭の両立をサポートする制度が整備される——これは男性も恩恵を受けられることですよね。このように女性層が一種の試験紙のような役割を果たし、業界の改革が行われ、結果として皆が働きやすくなる——さらに、働きやすい業界だからこそ、男女問わず人材が集まり、定着していく——これらは好循環になっていくはずです。今は過渡期なのでどうすればいいかと頭を悩ませている経営者や、働きにくさを感じている方々もいると思いますが、諦めず積極的に変革をしてほしいです。そのためにもNWの取り組みを促進させて、全国に行き渡らせ、建設産業で働く女性同士がつながり連携することで、新しい風を業界に吹き込んでいきたいと思います。
(写真:須田久美子 氏
1982年、鹿島建設に土木・総合職として入社。技術研究所に配属され、コンクリート構造物に関する多数の研究に従事。その後、土木設計本部を経て現場へ。橋梁・トンネル工事等を約10年経験し、現職の土木管理本部 土木企画部 人事・教育グループ専任部長に。2018年から「建設産業女性定着支援ネットワーク」幹事長も務め、建設産業の女性定着に力を入れている。)