土木建設業界で女性人材を獲得・定着させるには
改正男女雇用機会均等法が1999年に施行されて以来、女性人材は少しずつ増加しているものの、依然として男性が多い土木建設業界。そのなかで「土木女子※」の第一人者として活躍し、長年、女性人材の活躍・定着支援を行ってきた鹿島建設株式会社の須田久美子氏によると、女性が働きやすい環境を実現することが、業界全体を盛り上げる最善の近道だという。
(写真:須田氏が現場監督を行った片持ち架設工法による張り出し長が国内最長の裏高尾橋の工事の様子)
※土木系の仕事や学問に携わる女性のこと。土木工事の建設現場では、工事全体を指揮する技術者(現場監督)や専門的な作業を行う技能者などを含む。建設業だけでなく、建設コンサルタント、教育・研究機関、官公庁、公益民間などを包括した土木業界で働く女性を指し、土木を学ぶ女子学生を含む
鹿島建設の女性の土木・総合職は1999年の改正男女雇用機会均等法以降は確実に増加しています。また、土木建設業界で働いていて、現在までに、土木技術者に限らず実際に作業に当たる技能者も含めて、土木建設現場で働く女性人材は確実に増えていると感じます。しかし、現実として離職率が高いのも事実です。特に、若手や子育て世代の女性が仕事を続けられずに業界を去ってしまうケースが多いと感じています。理由はそれぞれあると思いますが、女性技術者の場合ですと現場でキャリアを積みたいと希望していても妊娠・出産を迎えると、従来の現場運営に固執する現場所長のもとでは、育児と仕事の折り合いを付けるなかで発生する制約のために、現場勤務の継続が難しくなります。そのようななかで、柔軟な現場運営が施されない場合には、上司や同僚など周囲に負担をかけることが予想されるため、現場でのキャリアアップを希望しながらも言い出しにくく、結果として、育児期間には現場経験を希望しない、または退職を選択する女性が多くなります。女性技能者の場合は、そもそも極端に女性が少ない男性中心の職場環境であるため、女性人材を本気で採用し育成する風土が醸成されていないという実態があります。多くの現場では、女性が技能者として働くためにはその環境に我慢して適応し、男性以上に頑張る必要があります。経営者の理解が得られなければ、子育てをしながら仕事を続けたいという望みを持つことそのものが高いハードルとして立ちはだかります。実際、男性と同じ条件で働くなかで「女性だから」という特別扱いは期待できず、体力面や周囲の理解不足から女性が無理をし続けなければならない場面が多く、妊娠・出産のタイミングで離職することになります。配慮をしようとする企業もありますが、必要な配慮の内容はそれぞれに違いますので、対話不足が原因でうまくいかないことも多いようです。そうした苦い経験が雇用側に女性の採用を躊躇させ、結果、業界の体質改善が行われず、業界の女性人材の定着がなかなか進んでいかないのです。
また、土木建設業界に就職を希望する女性技能者がいても、就職活動に苦戦し、最終的には一人親方として働くケースも多いです。しかし、一人親方の場合、産休・育休制度はありませんので、妊娠すると即失業になったり、長期的に働き続けることが難しいのが実状です。こうした状況が女性を長くこの業界に留まらせることを困難にしている要因となっています。せっかく建設の仕事に魅力を感じてこの業界に飛び込んでくれる女性たちがいるのに、大変残念だと思います。土木建設業界の魅力をしっかり打ち出して、若手人材を惹きつける努力を続けていきたいですね。
次回『大地』148号では須田氏に土木建設業界で女性人材を獲得・定着させるにはどうすればいいかを具体例をあげながら解説いただきます。
建設産業で働く女性の入職促進、定着を図ることを目的に2018年に設立された
「建設産業女性定着支援ネットワーク」のウェブサイト
須田久美子 氏
1982年、鹿島建設に土木・総合職として入社。技術研究所に配属され、コンクリート構造物に関する多数の研究に従事。そのあと、土木設計本部、圏央道・裏高尾橋工事、首都高速中央環状品川線・五反田出入口工事、東京外環道・中央JCT北側ランプ工事の現場を経て、現職の土木管理本部 土木企画部 人事・教育グループ専任部長、2018年から「建設産業女性定着支援ネットワーク」の幹事長を務め、建設産業界全体の女性定着に力を入れている。