Interview 一緒に考えよう!業界のミライ

高卒人材は「ダイヤモンドの卵」

建設業界で若手人材を獲得していくには
少子化に伴い、求人市場の競争が激化している。長年にわたり高校生の就職支援を行ってきたハリアー研究所の新留英二氏によると、建設業界が国のインフラを支える重要な仕事であるというメッセージを継続的に発信することが、同業界における高卒人材の獲得には有効だという。

「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は技能者の資格や現場での就業履歴などを登録・蓄積し、技能・経験が客観的に評価され、技能者の適切な処遇につなげる仕組み

高校生の就職支援に興味を持ったきっかけは何でしたか?

私は大学卒業後、リクルートに就職し、初めに担当したのは高卒採用メディアでした。しかし1990年代に入ると、同社は大卒や中途採用にシフトすることとなりました。とはいえ高卒人材へのニーズは衰えず、その声に応えるべく1995年に独立することを決意しました。それ以来、私は全国の延べ2,000の企業と協力しながら高卒人材の就職支援を進めてきました。

建設業界の人材の供給元となってきた工業高校の現状はどうなのでしょうか?

日本全国に存在する工業高校は、私が研究所を創設した2003年から統廃合が進み、2020年までに20%程度減少して約500校になっています。また18歳人口の減少が進むなかで、高等教育の無償化と新しい就学支援制度が導入されたことにより、進学率は2003年の30%から2020年には50%まで上昇しました。これにより、高卒就職率は2003年の20%から現在は11%まで下がっており、2025年の求人倍率は4倍に達するとみられます。まさに高卒人材の価値は「金の卵」から「ダイヤモンドの卵」に匹敵すると言えるでしょう。

建設業界の給料水準に関する最新の動向はどうですか?

建設業界では、大手企業を中心に給与水準が上昇しています。例えば、2020年には東京都内の建設会社の平均月給が20万4,000円※となっており、これは2015年の平均月給18万5,000円から約10%の増加です。これは技術の進化と労働力不足が影響しています。

 

※ただし、都市部と地方の給与格差は依然として約4万円の差が存在している

建設業界が若手人材の獲得に苦労している 原因と対策は?

建設業界へのネガティブなイメージが根強い問題や職能の可視化の遅れが、若手人材の獲得に大きな障壁となっています。
しかし、大雪の際には除雪車など建設関連の車両が活躍し、その他の状況においても生きていくためのインフラ整備には建設業界が大きく貢献しています。特に災害時など、建設業界が復興に重要な役割を果たしていることは、もっとクローズアップされてもよいはずです。
心配される待遇の面でも、建設業界では改善が進められており、実際に休日数も平均を上回るようになっています。また、猛暑下での過酷な屋外労働というイメージについては、ファン付き作業着を着用するなど、作業環境の課題に意欲的に取り組んでいることを、現場からの声として積極的に発信してもよいかもしれません。
一方、今後の建設業界においては、CCUS(Construction Career Upgrading System)のような業界の資格やスキルを体系的に評価するシステムの普及が重要なのですが、中小企業にはまだまだ負担が大きいということもあるようです。
また、進学志向の高まりにより高卒の有能な人材が減少しているため、企業は作業環境の改善、高校や専門学校との連携強化、地域コミュニティでの積極的なイベント参加を通じて業界の魅力をより一層アピールする必要があります。

若手人材の離職率を下げるために企業ができることは何でしょうか?

離職率を下げるためには、学生に対して建設業界での業務を体験できるアルバイトやインターンシップの機会を増やすことが効果的です。高校生の就職活動期間は短いため、このような形で、高校1年生の頃から業界に触れる機会を提供することが重要となります。これにより、就業前に業界に対する理解を深めることができ、ミスマッチの防止につながります。実際に、当研究所が行った調査によると、インターンシップ参加者の離職率は、非参加者に比べて約15%も低くなっています。教育関係者の方々に対しても、建設業界に対するイメージを改善し、生徒の興味を引き出すための取り組みをお願いしていきたいところです。
自分が関わったプロジェクトが形として残る充足感や達成感は、建設業界でのロイヤルティやモチベーションに大きく影響しています。これは経験豊富な方々の感想からも明らかです。また、勤続年数が長くなるほど離職率が低下する傾向にあります。これは建設業界の大きな魅力としてアピールすべき点です。

Z世代の就職に関して、 どのようなアプローチが効果的だと思いますか?

Z世代はデジタルに精通していますので、SNSやYouTube、Instagramなどのプラットフォームを活用した情報提供が効果的です。また、彼らの価値観に合わせたWi-Fi完備の居住環境やライフステージに寄り添った柔軟な勤務体系の提供も考慮する必要があります。

建設業界において、若者たちが 自らの将来像を描くうえで幸せを感じられるよう、 どのようなサポートが求められていますか?

建設業界は国のインフラを支える重要な役割を担っており、その意義を若者に理解してもらうためには、やはり、業界の方々自らがその魅力を発信することに加えて、教育関係者との連携をたゆまず深める努力を続けることです。就職と進学のバランスを調整し、より多くの就職ガイダンスや業界紹介イベントを開催することが、若者が建設業界でのキャリアをイメージする助けとなるでしょう。
建設業界の魅力をしっかり打ち出して、若手人材を惹きつける努力を続けていきたいですね。

 

写真:新留英二 氏
株式会社ハリアー研究所 代表取締役会長
高卒新卒採用のコンサルティングに特化し、日本国内で初めて高卒就職求人サイトとして「ハリケンナビ」をリリース。高卒人材の採用から、モチベーション管理まで幅広くコンサルタントしてきた実績あり。