Daichi Report

配管内蔵 バケットシリンダー

一般的に、油圧ショベルのバケットシリンダーはロッドが地面側にあるため、傷つく可能性が高く油漏れなどの不具合が発生するリスクが常にある。コマツのシリンダー開発を一手に引き受けるコマツの郡山工場ではその問題を解消するべく、シリンダーの上下を逆転し、ロッドを上側に配置した画期的な「配管内蔵バケットシリンダー」を開発した。そのメカニズムとメリット、そして将来的なビジョンを開発に携わった郡山工場のメンバーに聞いた。
生産本部郡山工場
工場長
作田俊哉 氏
開発本部油機開発センタ
システム・コンポーネント第二開発グループ
シニアエキスパートエンジニア
浅野広太郎 氏
生産本部郡山工場
生産部生産技術課
庄子隆太 氏

油漏れのリスクがある従来のバケットシリンダー

油圧シリンダーとは、油圧を媒体とした伸縮動作により大きな力を発生するコンポーネントのことだ。胴体となるシリンダーチューブの中に、油圧力を伝える棒状のロッドが設置されており、ロッドによるピストンを押す・引くの直線運動が機械の動作へと変換される。
従来のバケットシリンダーはアームに設置されており、ロッドが地面側になる構造となっている。そのため、岩石などの衝突で傷ついたり、粉塵などがシリンダーに侵入したりすることで、シリンダー内のパッキンが損傷し油漏れが生じるリスクがあった。

シリンダーの上下を逆転させる

「油漏れ対策への要望は以前からありました。当工場ではリマン※を推進していますので、回収した部品を研究するなど、さまざまな策を検討しました」と生産本部郡山工場工場長の作田俊哉氏は語る。 郡山工場ではシリンダーの上下を逆転させロッドを上(ブーム側)に配置するとともに、油圧ホースを排除し、ロッド内に穴を開けて油路とする画期的な配管内蔵バケットシリンダーを開発した。

※ リマニュファクチャリングの略で、お客さまが使用した部品を回収し、リフレッシュして新品同様で再出荷することを意味する

ロッド内に穴を開けて油を供給する

「油圧ポートはシリンダーチューブにあるため、シリンダーの上下を逆転させると油圧ホースが長くなり、ぶつかったり引きちぎれたりといった問題が生じるのですが、配管を内蔵することで解消 しました」と、開発本部油機開発センタシステム・コンポーネント第二開発グループシニアエキスパートエンジニアの浅野広太郎氏は説明する。
シリンダー径もロッド径も従来同様で使い勝手は変わらない。また、逆転して設置しているがロッドがピストンを押す・引くの構造は変わらないためパワーもこれまでと同様だ。

ロッド内にまっすぐな穴を開ける精巧な技術

一方、量産に耐えうる品質とコストでロッドに穴を開けるには高い技術が必要となった。生産本部郡山工場生産部生産技術課の庄子隆太氏は「ロッドの剛性を確保するためには、細い穴をまっすぐに開ける必要があります。さまざまな工法にチャレンジし、最適な工法の探索・改善を行った結果、ようやく設計どおりのまっすぐな穴を開けることに成功しました」と生産工程における苦労を振り返る。

将来のスタンダードになる可能性が高い

配管内蔵バケットシリンダーは2018年から本格的な開発が始まり、2022年に発売された。インドネシアにおいては13トンクラスの油圧ショベルの標準装備で、現在までに1,000台以上が出荷されている。国内においては、レトロフィットキット仕様となっており、新車を購入しなくても現在使っている油圧ショベルに簡単に取り付けることができる。
「今後は油圧ショベルだけでなく、ブルドーザーやホイールローダーなどにも配管内蔵バケットシリンダーを展開していきたいです。それが今後のスタンダードになっていくのが夢ですね」と製品の開発・設計を手がけた浅野氏はビジョンを語る。

【コマツ郡山工場】
総面積378,700m²(東京ドーム約8個分の広さ)の敷地に500名弱の従業員が働いている。コマツの工場のなかでは小規模な工場で、その分闊達なコミュニケーションが取られており、スピーディーな業務進行が特徴だ。油圧シリンダー、スイベルジョイント、ギアポンプを世界の各拠点に供給。油圧機器のマザー工場として品質と信頼性を追求している。

配管内蔵バケットシリンダーの模式図

シリンダーの上下を逆転させて配置し、油路となる配管をロッドに内蔵。赤色がヘッド側、青色がボトム側の部屋を示しており、ヘッド側から油を入れることでロッドが縮み、ボトム側から油を入れることでロッドが伸びる。

 

User's voice「こういうコンポーネントをずっと待っていた!」

当社の業務では建設汚泥をピットという穴の中に溜めて固化剤などを混ぜるのですが、液状なので柔泥土が多く、従来の油圧ショベルですとシリンダーの中に土が入り、オーバーホールのために多くのコストと時間が発生していました。配管内蔵バケットシリンダーなら土が入らないですし、油漏れの心配もありません。パワーも従来と変わらないので、とても助かっています。
(写真:株式会社田中浚渫工業 マッドパワー工場長 大月採石場統括部長 駒井龍治 氏)

株式会社田中浚渫工業
産業廃棄物収集運搬業・処分業を中心に業務展開。マッドパワー工場では建設汚泥の中間処理を行っており、1日当たり500~600m³の流動化処理土を出荷。大阪でも有数の出荷量を誇る。