「電動化」の推進により地域社会との共生を図る

建設機械の大型化を図り効率的な業務を実現。更なる効率化を狙い選んだのは「電動化」だった。

地域の「みどり」を守る事業展開

東京都西東京市田無の閑静な住宅街に拠点を構える、株式会社尾林造園。1965年に有限会社尾林造園として創業し、1982年に株式会社に改組。創業以来、一貫して「みどり」にこだわり、造園工事・庭園の維持管理・樹木の生産販売を主な事業として展開してきた。関東一円に約18ヘクタール(約55千坪)の植木農場を維持している。代表取締役の尾林長一氏は二代目。先代の創業者は父に当たり、三多摩造園協同組合の初代組合長や田無緑化組合の初代組合長を歴任した。

(写真 株式会社尾林造園 代表取締役 尾林長一 氏)

大型建機を導入しリサイクル業を展開

自治体からの仕事が多く、これまでに西東京市内の小学校の樹木の植栽、街路樹の整備、市役所周辺の造園工事など、幅広く手掛けてきた。一般的に造園工事は小さい建機を使用することが多いが、同社においては大型の建機を導入し、スケールメリットを活かした事業展開を行っている。「当社では2001年に、油圧ショベルのPC60に油圧旋回フォークを装着し導入しました。これにより、伐採効率は格段に上がり、大型建機を活用した仕事ぶりが当社の強みとなりました」と、尾林社長は当時を振り返る。

PC60を導入した同じ年に自走式木材破砕機リフォレBR120Tを導入、剪定枝のリサイクル事業に乗り出した。その後、剪定枝の破砕事業から撤退し、現在は近隣の造園企業の剪定枝を引き受け、リサイクル業者のトラックへの積み替え事業を行っている。

油圧ショベルの低騒音改造機開発へ

2007年に油圧旋回フォーク仕様の油圧ショベルPC138US-8を導入し、剪定枝の積み替え業務に活用。作業効率は大幅に向上した。2015年には当時の最新機種となるPC138US-10を導入。PC138US-10は十分な環境対策と数々のアップグレードがなされ、排ガス装置冷却のため外装に開口部が追加された。ところが、規制値はクリアしていたものの、作業音が以前より大きくなったため、同社では近隣住民への騒音配慮・調和を重視。コマツと対応策を協議した結果、コマツの開発チームと協力してPC138US-10を更なる低騒音化の実現に向け改造することになった。「騒音のレベルがどの程度なのか、騒音調査を行いました。『以前よりも、ちょっと静かになった』といった曖昧な印象ではなく、明確な数値で議論を進めていかないと、目標が定まらなくなります。コマツの担当者に実際に計測した数値を提示し、どのレベルまで、どうやって騒音を下げるのかを共に検討。何度も機械の調整を繰り返してようやくPC138US-10の改造機が完成しました」と、現場を取り仕切る環境事業部の尾林(ゆたか)氏は本改造の経緯を語る。

株式会社尾林造園 環境事業部 尾林優 氏

エンジン駆動式から電動式へ

PC138US-10の低騒音改造機によりリサイクル事業は一層成長し処理量が増加した。「騒音レベルを上げることなくパワーアップできないか、とコマツに相談したところ、『更に低騒音化にフォーカスするのであれば、エンジン駆動式から電動式へと切り替えるのはどうか?』という提案がありました」と、尾林優氏は語る。

コマツでは、当時10tを超えるクラスの電動油圧ショベルの開発事例はあまりなかったが、同社からの要望を受け製品開発に乗り出した。開発には尾林優氏も深く関与し、幾度となく石川県小松市にあるコマツの粟津工場へと足を運んだ。実際に試作機を操作しては現場のオペレーターとしてのアドバイスをさまざまな角度から行い、製品開発に尽力した。同社とコマツの共同開発のような形でプロジェクトが進み、数々の試行錯誤を経て、20228月に有線式電動油圧ショベルPC138USE-11が完成。1号機が同社へと導入された。

かつてない低騒音を実現

有線式電動油圧ショベルPC138USE-11の大きな特長は、これまでにない静音設計だ。尾林優氏の計測によると、騒音レベルの変化は、20tクラスの油圧ショベルおよそ2台分の騒音の低減に当たるという。

エンジン駆動式とは異なり、騒音を気にすることなく業務を行えるため、これまで以上にスムーズな作業が可能となった。「こちらが思っている以上にパワーがあるので、これまでよりはるかにスピーディーな業務を実現します。従来のエンジン駆動式では10tトラックに剪定枝を積み込むのに30分程度かかっていましたが、電動式になってその半分の15分で済むようになりました」と尾林優氏は語る。

加えて、この低騒音の実現でオペレーターとの会話・意思疎通がスムーズになり、安全性も大きく向上したという。

自然環境や地域社会にも貢献

また、エンジン駆動式のような振動が軽減し、オペレーターの作業中のストレスや疲労感が少なく快適に作業が行えるようになった。機体からの排熱も低減して、作業環境は格段に快適だ。しかも、排出ガスはゼロ。よりクリーンな作業を実現し、環境への負荷を大きく削減。給油の必要がないため、軽油配達のトラックの往来もなくなる。騒音だけでなく、自然環境や地域社会の交通安全にも大きく貢献している。

「現在、PC138USE-11を使っていますが、本当に『素晴らしい!』この一言です。コマツのサポート体制にもとても感謝しています。機械の不具合などにもすぐに駆け付けてもらえて、パートナーとしては頼もしい限りです」と、尾林優氏は語る。

社会のニーズに応える企業を目指す

同社では、業務に使用するさまざまな備品に関して電動化を進めている。「現場のフル電動化を目指しています。排ガスや騒音をなくし、環境への負荷をできるだけ削減していきたいです。造園業は地域の緑化に貢献して住みよい環境をつくることが使命です。幅広く社会のニーズに応える企業として、これからもまい進していきます」と、尾林優氏は抱負を語る。