現場のミライ探訪 Vol.1 株式会社ミヤベ 様(前編)

DXの可能性を探る!

大切な社員と愛するこの地を守り、 業界を変える先駆けに

山口県岩国市で土木建設業を営む株式会社ミヤべ。

同社の宮部範久副社長は、2022年、コマツのグループ会社である株式会社EARTHBRAIN(アースブレーン)から、現場のデジタルツインを実現する「Smart Construction Dashboard」の説明を受け、その場で導入を決断する。それは、社員、そして地元岩国のみならず、「われわれの業界そのもの」を一刻も早く変えていきたいという熱き心に突き動かされての判断だった。

創業以来、地域に支えられ、恩返ししてきた

ミヤベは、現社長と副社長の祖父が1952年に創業した企業。
インフラ整備を通じて地域の安全を守る企業としての姿勢を貫き続けて70年余。道路整備などの一般土木から、民間工事まで幅広く手掛けているが、同社を特徴付けているのは、災害復旧には真っ先に現場に駆けつける姿勢である。

土木建設業としての 「優良企業認定」

「自身の健康や家族があっての会社」は、ミヤべの企業方針の一つである。同社は山口県の優良企業認定を受けている※1。

完全週休二日制はもちろん、社員育成制度や、バックオフィスの効率化まで、多岐にわたる面で評価された結果だ。取材で訪れたオフィスは、社員たちが自由に使えるパブリックスペースや、カフェカウンターが備えられ、あたかも新鋭IT企業のようだった。

株式会社ミヤベ
代表取締役副社長
宮部範久 氏

やまぐち働き方改革優良企業ポータル」では、社員を大切にする姿勢が評価されている

膨大な書類をサーバーやクラウドに格納することで、社員にとって心地よいスペースを生み出した

Smart Construction Dashboardを見るなり 「これだ!」

同社では災害現場の状況を最短で把握すべく、2019年からドローンを導入している。当初は、あくまでも現地視察に使う程度で、現場責任者や経営陣はドローンが実務に使えるとは考えていなかった。

そんな折、宮部副社長は、EARTHBRAINから薦められたSmart Construction Dashboardによるデジタルツインが、実務上でさまざまなメリットをもたらすと直感する。「面白いじゃないですか! ぜひやりましょう」とその場で採用を決断した。

過酷な現場だからこそ人への負担を最小限に

通常の土木現場は、事前に状況が把握できているので比較的計画が立てやすいが、災害復旧の現場は、実際に行ってみないと何もわからない状況なのだという。同社はこの地域における災害復旧の主力であるため、過酷な現場を避けることはできないが、社員への負担は最小限にしたい。測量を何度も行うとなれば、相当な負担を強いられる。それを軽減できる技術なら、積極的に取り入れるべきだと宮部副社長は現場を説得し続けた。

デジタル技術の活用は待ったなし

ドローンで取得される点群データを活用した技術は、現場で鍛え抜かれた担当課長から「100%ではない」とシビアに評価されることもあったという。しかし、3Dで再現されたデジタルツインのもと、現場経験の豊富なメンバーが集って自由に意見を交わすことができれば、立ち会う新人たちの教育にも役立つはずだと宮部副社長は考える。今後は、作業者の高齢化や人材不足が更に進み、人が行う作業の軽減やAI 導入は待ったなしだと、デジタルツイン活用への決意は固い。同時に、こうした技術や柔軟な働き方を広めることで、この業界全体を変えていきたいという思いもあるようだ。

(写真:勢羅課長と解析された点群データを囲むEARTHBRAIN社員と、ミャンマー出身の高度人材として入社したタスーライ氏(右)。シャイな勢羅課長は背中で登場)

 

 

 

厳しい視点でDXと向き合う現場指揮官が 技術を鍛える

取材で訪れた災害復旧現場※2の切り立った崖を颯爽と下りて来たのは、土木部工事課の勢羅満子課長である。元建設コンサルタントである勢羅課長は、測量・設計・施工それぞれの資格を有するスーパー人材。豊富な知識をわかりやすく伝えることにも定評があり、後輩たちにとっては頼りがいのある教師役だ。

「現時点では、DXによるICT測量・施工にはまだまだ課題が残されています。こうした新しい技術を盲信せず、人の知識と実地検証を組み合わせて判断することが不可欠ですし、更にはこの技術に相応しい現場や工種を見極めることが求められます」と勢羅課長は語る。もちろん、危険な現場で活用できる側面も多々あることから、一層の技術革新に期待を寄せる。現場を熟知した厳しい視点に基づいた指摘で、EARTHBRAINの技術を進化させていくという関係式が、未来の現場を変えるDXを生み出していくに違いない。

次号144号では、同社のユニークな人材登用、そしてSmartConstruction Dashboardによるデジタルツインが実際の現場でどのように活用されているのかを詳報します。

※1:「やまぐち働き方改革推進優良企業」として認定。働きやすい職場環境づくり、出産・育児・介護に関する支援、多彩な人材の活用などの評価項目がある

※2:古屋山腹工事現場