ICT施工が建築現場を進化させる

経験から培った独自技術と積極的なICT建機の活用で建築現場に新しい価値を次々と生み出す。

国内最大級の巨大物流施設の建築工事

 名古屋市中村区の三菱重工業岩塚工場跡に国内最大級となる巨大な物流施設が建築されている。延べ床面積はサッカーコート50面分となる355,000㎡、地上4階建て。複数の大手流通企業がテナントとして入り、この施設を使用することになる。

 建築は清水建設株式会社が担っており、そのパートナー企業の一つが静岡県島田市に本社を構える株式会社トラスト・ワンだ。トラスト・ワンの設立は2009年。清水建設の業務を請け負うことが多く東海4県を中心に幅広く事業展開し、これまでに病院や高層ビル、マンションなどの建築に携わってきた。「当社は少数精鋭で、各人が経営者感覚を持ったプロフェッショナルとして、それぞれ現場を受け持ち業務に当たっています」と、株式会社トラスト・ワン 代表取締役の篠明氏は語る。

SDGsの達成に向けた取り組み

 この巨大な物流施設の建築に当たり、清水建設では徹底したSDGsへの取り組みを行っている。「現在清水建設では、全社的にSDGsの実現に寄与する考えです。各現場ではCO₂の排出を削減する目標を設定したり、再生可能なエネルギーを使用したり、さまざまな取り組みを行っています」と、清水建設株式会社 名古屋支店建設所長の喜田浩行氏は語る。

 トラスト・ワンでは以前から、業務の効率化による省エネやCO₂の排出量削減を実現するICT建機の使用に積極的で、清水建設から相談を受けた際にICT建機の建築現場での活用を提案した。

建築現場でのICT建機活用

 一般的に、広大な土地を対象とする土木工事において、ICT施工は高い業務効率を発揮するといわれているが、土木工事と異なり狭小なスペースで繊細な技術が必要とされる建築工事では、ICT建機は不向きとされてきた。

 「今回の物流施設は1辺が450mにも及ぶ広大な土地が対象になります。トラスト・ワンから、ICT建機活用の提案を受けた際、この現場であればICT建機の機能性が十分に発揮され、業務効率および費用対効果の向上が見込めると判断しました」と、ICT建機採用の経緯を清水建設株式会社 名古屋支店副所長の伊藤茂郎氏は語る。

「クイックスマコン」による3D施工

 ICT施工には、3Dデータを作成する一般的な手法と、平面図をICT建機に取り込むことで3Dデータを作成することなくICT施工が可能となる「クイックスマコン」という二とおりの方法がある。クイックスマコンは、ICT建機の無限平面を作成する機能と平面図をモニターに表示する機能、この二つの機能を活用することで、簡単かつスピーディーに3D施工を実現する。物流施設の建築工事に際して、トラスト・ワンではクイックスマコンを採用した。「今回のような根伐り(建築基礎工事)における掘削工事は、一般的な土木工事とは異なり勾配のない平らな地面を掘削していくことになるため、わざわざ3Dデータを作成する必要はありません。3Dデータ作成で発生するコストや作業時間を削減し、ICT施工ならではの効率的な作業が可能となります」と、株式会社トラスト・ワンの夏目佳明氏はクイックスマコンのメリットを語る。

先進技術による安全対策と稼働管理

 ICT施工は業務効率の向上だけでなく安全性においても大きなメリットをもたらす。従来のように、丁張や墨出しの必要がないため、建機周りに作業員がいることが格段に少なく事故の危険性が大きく減る。

 さらに、今回使用しているコマツのすべての建機には「KomVision人検知衝突軽減システム」が搭載されている。このシステムは、機械側面と後方の4台のカメラを用いて、機体の周囲を確認し、走行または旋回起動時に人を検知した場合、機体の発進を制御する。これにより、機体と人との衝突事故の発生を抑制するのだ。「ICT施工で人が少なくなり、KomVisionによって、更なる安全性が確保されました。オペレーターのストレス軽減にも大きく寄与しています」と篠社長は語る。

 また、燃料使用量の最適化には、コマツが開発した機械の稼働状況を管理するKomtraxを活用した。Komtraxのレポートによる燃料の使用状況の見える化で稼働状況がひと目でわかり、燃料使用における課題が明確となる。建機ごとの稼働履歴をもとにオペレーターに的確なアドバイスを行い、業務効率を高め、コスト削減と徹底した環境対策を図った。

独自技術が建築現場を支える

 業務効率を高め、安全かつクリーンな作業の実現には、トラスト・ワンがこれまでの経験で培った独自技術も大きく貢献している。

 根伐りを行う場合、一般的には掘削後に梁の配筋を行い、鋼製型枠を建て込み、打設を行う。ところがトラスト・ワンは、梁の配筋を行わずに鋼製型枠を建て込む独自技術を有している。清水建設の喜田所長は「トラスト・ワンの独自技術は、コスト削減を実現するだけでなく、省エネや安全性の確保にも寄与し、SDGsの実現に貢献します」と、トラスト・ワンの技術力を評価する。

建築工事におけるICT活用がポイント

 常に未来を見据えた活動を展開する篠社長に今後の展望を聞いた。「これからはますますICTが重要になっていくと思います。ICTを活用することで、より精度の高い仕事を効率的に実現する。これが、これからの業務スタイルになっていくでしょう。土木工事だけでなく建築工事においても、いかにICTを使いこなすかが鍵になります」。

 確かな技術と優れた先見性で、地域の建設業を牽引するトラスト・ワン。その確かな仕事が国内最大級となる巨大物流施設の建築工事を縁の下で支えている。