後方超小旋回・スーパーロングフロント・アームクレーン、この三拍子が護岸工事の効率化の決め手

河川の氾濫や土砂災害において、護岸工事に求められることは何か。災害復旧工事のプロに聞く。

護岸工事などの災害復旧工事に尽力

 1988年に創業した新潟県上越市の株式会社八幸建設。創業当初は圃場整備などの事業が多かったが、現在では災害復旧に伴う護岸工事をメインに手掛けている。同社はこれまでに、数々の災害復旧工事に尽力してきた。1995年の7.11水害(一級河川関川が氾濫し、家屋100戸以上が全半壊、6,000戸以上が床上・床下浸水)や、2004年の新潟県中越地震(最大震度7を記録し甚大な被害が発生)など、地域社会を襲う災害現場にはいち早く駆けつけた。

「いかに地域社会が元の生活を取り戻すための手助けができるか。そればかりを考え、業務を推進してきました」と株式会社八幸建設 代表取締役の市村謙氏は語る。

現場の要。PC138US-11 SLF仕様

 同社の護岸工事に欠かせない建機が「PC138US-11 SLF(スーパーロングフロント)仕様」だ。市村社長が護岸工事に活かせるのではと興味を持ち、試乗したのが導入のきっかけだ。「複数のメーカーの製品に実際に乗って比べてみました。コマツのPC138US-11 SLF仕様はアームを降ろして止めても車体が前後に揺れることがほとんどなく、バランスが良く安定していました。業務効率だけでなく、安全性から判断してもコマツしかないと思いました」と、市村社長は導入の経緯を語る。

PC138US-11 SLF仕様の三つの特徴

 PC138US-11 SLF仕様には大きな特徴が三つある。一つ目は「USタイプ」であること。USタイプとは、車体の後端部が標準機に比べ、小さくコンパクトに収まっているタイプのことで、後方超小旋回が可能となる。広いスペースを確保できない山間部での護岸工事では、後方の地山(法面)と建機との間が狭く旋回できなかったり、建機周囲で作業する人への安全性が十分に確保できなかったり、さまざまな問題が生じていた。USタイプが実現する後方超小旋回がこれらの問題を解決した。

 二つ目は「SLF仕様」。SLFとはスーパーロングフロントを意味する。12.3mの長いアームを有しており、従来型の建機では届かないところにバケットが届くため、これまでにないワイドな範囲での作業を可能にする。

 護岸工事において高さのある法面にブロックを積む場合、従来であれば、まず建機や積み上げるブロック、部材など一式を川底まで降ろさなければならない。そして、アームが届く高さまでブロック積みを行い、そのあと作業を一旦中断、建機と部材を岸の上まで戻し、残りのブロック積みを岸から行うのだ。これがSLF仕様であれば、建機や部材を川底まで移動させる必要はなく、長いアームを利用して対岸から法面すべてのブロック積みを一遍に行うことができる。「SLF仕様は業務の効率化に大きく貢献しています。法面のブロック積みであれば、これまで1日かかっていたものが半日で終わります」と市村社長は話す。

 そして、三つ目が「アームクレーン」だ。バケット部にフックを装備しており、フックを取り出すだけでクレーンとして使用できる。安全かつスムーズな部材の吊り上げが可能だ。「ブロック積みや生コンの打設にはアームクレーンが必須です。業務的には掘削作業よりも、クレーン作業に費やす時間の方が長いと感じるくらいです。クレーンがついていないと仕事にならないといっても過言ではありません」と市村社長はアームクレーンの必要性を説明する。

後方超小旋回を実現するコンパクトな車体後端部分

バケット部に装備されたアームクレーン

護岸工事の効率化を実現

 現在同社では、土側溝であった排水路をコンクリートに改修し、両岸を整地する護岸工事を行っている。作業にあたっているオペレーターでもある株式会社八幸建設 土木部長の岩片義重氏は「この工事は、以前はUSタイプではなく標準機で作業していました。車体の後端部がクローラ―より大きく飛び出ていたため、狭いスペースでは旋回できず、業務が思うように進みませんでした。それが、PC138US-11 SLF仕様であれば、狭いスペースでも旋回でき、対岸の工事もできます。業務効率が飛躍的に向上しました」と、PC138US-11 SLF仕様のメリットを語る。また、「PC138US-11 SLF仕様に限らずコマツの建機は操作に癖がありません。初めて使う人でも、すぐに慣れて簡単に操作することができます。アームは長いですが、しっかりとしたウエイトが装備されて安定していますし、操作もスムーズで標準機に乗っている感覚です」と操作性にも太鼓判を押す。

ポイントは三拍子揃うこと

 同社では業務の更なる効率化を図るために、2021年に同機種の増車を決定した。ところが当時、PC138US-11 SLF仕様の生産は終了しており、後継機種の「PC120-11 SLF仕様」はUSタイプ、後方超小旋回機の生産はされていなかった。「PC138US-11  SLF仕様のおかげで業務の大幅な効率化を図っていましたし、当社にとっては『後方超小旋回』『スーパーロングフロント』『アームクレーン』、この三拍子揃うことがポイントでした。そこで、ぜひ復活してほしいとコマツに要望を出しました」と市村社長は当時を振り返る。

 コマツでは市村社長の要望を受け、「後方超小旋回」「スーパーロングフロント」「アームクレーン」の三拍子揃った建機の必要性を再認識。改めて開発に乗り出し、PC138US-11 SLF仕様の正式な後継機種が誕生した。

「ありがとう」という言葉のために

 地域社会と密接な関係を持ちながら事業展開している同社。「護岸工事を中心に毎日いろいろなところで業務を行っていますが、その地域の方から『きれいにしてくれてありがとう』という感謝の言葉をいただくことが何よりもうれしいです」と市村社長は微笑む。真面目な仕事ぶりと気さくで飾らない姿勢が、同社の優れた工事品質に更なる魅力を添えている。