世界最大クラスの剪断用アタッチメントで大型化する船舶の解体に挑む

海域の特性を活かしながら大型船舶の効率的な解体を実現。社会ニーズに応える事業展開に迫る。

リサイクル資源を生み出す船舶解体

 九州西部に位置し、北は有明海につながる八代海を望む熊本県八代市。新鋼商事有限会社はこの地に拠点を構える。創業は1951年、設立は1982年となる。代表取締役は早田勇二氏、父親である先代社長のあとを継ぎ、2006年に社長に就任した。会社設立以降、船舶解体をメインに事業展開している。

 船舶解体とは、老朽化や事故により廃船となった船舶を再利用できる部品と破棄するものへと解体することをいう。船舶解体業者は個人や企業、官公庁などの船舶オーナーから廃船を仕入れ、解体によって得られたリサイクル資源を製鉄所などに販売する。船舶解体業を専門に行っている企業は全国でも10社程度だといわれている。

 同社ではこのあたりの海域の特徴でもある干満差を利用し、満潮時に船舶を移動し、干潮時に解体作業を行う効率的な作業を行っている。この干満差がもたらす「自然のドック」は同社の大きな強みだ。「船舶というのは一つの工場施設のようなもので、その中にさまざまな機能を有しています。燃料処理やオイル処理など、適切な対応が必要な箇所もありますが、干潮時に解体作業を進めることで効率が上がるだけでなく、オイルの海水への流出を防ぐことができます」と早田社長は「自然のドック」がもたらすメリットを語る。

解体業務の機械化が効率化の鍵

 船舶とは、ほぼ鉄板で造られた構造物だ。その解体には、ガスバーナーを使って人力で行う方法と、剪断用の機械で行う方法の二種類がある。機械で作業を行う場合は、油圧ショベルに剪断用アタッチメントを装備する。当然、機械の方が圧倒的に作業スピードは速いが、鉄が厚く機械では剪断できない場合や、細かい作業が必要な場合は人力作業となる。

 同社では剪断用アタッチメントに米国のStanley Labounty社製のラバンティシャーを採用してきた。ラバンティシャーは性能・パワーともに世界のトップクラスのクオリティーを誇る。ブレードの刃先が先に閉じる屈折型で、対象物を切断部から逃しにくい構造となっている。そのため、剪断が難しい対象物でも、安全かつ効率的に作業することができる。

世界最大級の剪断用アタッチメント

 同社ではこれまで、ラバンティシャーMSD7500R(質量14,350㎏、開口幅1,095㎜)をコマツの油圧ショベルPC850に装備し使用していた。MSD7500Rであれば32㎜の鉄板の剪断が可能だが、2017年の導入で既に機械の老朽化が目立ち、新たな機械の導入時期を迎えていた。

また、近年は輸送効率の向上を目的とした船舶の大型化が進んでおり、これまでのようにMSD7500Rでは剪断できない厚みの鉄板を持つ船舶が増えてきていた。同社では市場の動向に対応するべく、40㎜の鉄板の剪断を可能にするラバンティシャー最大のMSD9500R(質量21,100㎏、開口幅1,220㎜)の採用を決めた。ラバンティシャーを取り扱う国内総代理店のマルマテクニカ株式会社とコマツとの調整により、MSD9500Rのポテンシャルを最大限に引き出すためのベースとなる油圧ショベルとしてPC1250が採用された。

機械の大型化により効率化を実現

 MSD9500Rは現在、世界でも10台程度しか出荷されておらず、今回が国内初の導入となった。前例がないため、PC1250との組み合わせに関しても、油圧の調整やバランスの最適化など、さまざまな試行錯誤が行われた。PC1250のブーム部分は、ラバンティシャーとの接合部になるため特別仕様へと改造され、そのほかにも、MSD9500Rのポテンシャルを最大限に引き出すために、PC1250の各種チューンアップが行われた。細かい調整が幾度となく繰り返され、構想からおよそ2年が経過した20227月に導入されることになった。

 「効率は格段に上がりましたね。ただし、導入してから2カ月程度しか経っていないため(202296日に取材)、燃料効率がどれほど変化したかはまだ確認できていません。PC850に比べ、1日当たり50100ℓ燃料の使用量が増えているので、毎月コマツから提出される燃料使用量の数値(機械稼働管理システムKomtraxのデータ)を参考にしながら、燃料効率の最適化を今後の課題として取り組んでいきます」と早田社長は話す。

「フローティングドック」の導入

 世界的にSDGsへの関心が高まり、資源循環型社会への進行が加速している。同社においては船舶解体という事業そのものが、鉄・非鉄金属のリサイクルを通して社会貢献につながっているが、更に業務の進め方に関しても、SDGsへの貢献を意識している。「当社では干満差による『自然のドック』を活用した業務を行っていますが、それだけでなく『フローティングドック』を導入しています。フローティングドックとは浮き沈みするドックのことです。凹型をしたドックの内部に設置したタンクに海水を入れると、ドック全体が沈下し、排水すると海面の上に浮上します。解体作業を行うときは、ドックを浮上させると油流出の可能性が大きく低減し、環境への負荷を限りなく抑えた状態にすることが可能です」と、早田社長はSDGsへの対応を語る。

更なる大型船舶への対応を目指す

 船舶の大型化が進み、国内の解体業者では対応できず、バングラデシュなど海外の業者が日本国内の船舶の解体を行っていることも多いという。「廃船はあくまでも資源です。その資源が国外に流出してしまうことをとても残念に感じます。今後は、より大型の船舶に対応できるよう、事業環境を整えていきたいと考えています」と、早田社長は国内のエネルギー事情と未来を見据え、企業のビジョンを語る。

世界最大クラスの剪断用アタッチメントMSD9500Rを装備したPC1250

「コマツの建機は故障が少なく信頼性が高い」と語る新鋼商事有限会社 専務 早田誠 氏