時代の変化に合わせたアップグレードで事業を活性化

奄美大島におけるICT施工のリーディングカンパニーは、一人の担当ディレクターを中心にICTを推進。

奄美大島で元請けとして土木業を展開

 九州南方海上、鹿児島県本土と沖縄本島のほぼ中間に位置する奄美大島。美しい海と壮大な森、手つかずの大自然が残るその地で土木業をメインに展開している株式会社勇建設。創業は1972年、半世紀を超える歴史を誇る。代表取締役の勇賢悟氏は三代目で、10年ほど前から現場を任されながら経営に携わり、2022年4月に社長に就任した。元請けとして事業展開しており、請け負う仕事のほとんどが公共事業だ。

 コマツとの付き合いは先々代からとなり、40年を超える。専務取締役兼土木部長の坂元秀樹氏は「建機に関しては、始業前点検を徹底していますので、気になるところがあればその場でコマツに電話をします。すると、必要な部品を持ってすぐに駆けつけてくれ、壊れる前に対応ができるので、とても助かっています」とコマツのサポート体制に対する信頼を語る。

株式会社勇建設 代表取締役 勇賢悟 氏

同社に納入された建機はすべて企業カラーであるブルーの塗装が施されている。

ICT導入のきっかけは「新しもの好き」

 現在、レトロフィットキット装着機を3台導入し、この地域のICT施工におけるリーディングカンパニーとして、島内だけでなく鹿児島県全域でICT施工を展開している。ICT導入のきっかけは、当時社長であった現会長の「新しもの好き」に起因する。「先代は常に最新の技術に興味を持ち、まだ出始めだったICTのことを聞きつけ、即導入することに決めました」と勇社長は振り返る。

 当時はまだICT活用工事案件はそれほど多くなく、先駆的な取り組みとなったが、ICTがもたらすメリットは、最初の現場ですぐに実感することができた。その現場は構造上、丁張の設置が難しいロケーションであったが、丁張の必要がないICTによって、スムーズに作業に入ることができた。

ICTが安全で効率的な業務を実現

 その後も同社は積極的にICT施工を進めていった。現場を取り仕切る坂元専務は「法面の勾配が途中で変わるような現場では、作業の途中で改めて丁張を設置する必要があり、手間になるし作業も危険です。ICTのおかげで、安全で効率的な作業が実現しています」とICTのメリットを語る。

 また、タブレットに表示される3D図面を見れば、どのあたりでどのような作業をすればいいのか、直観的に把握できるため、経験の少ない若いオペレーターでも熟練オペレーターのようなクオリティーで作業ができる。「私はオペレーターになって4年目ですが、ICT建機のおかげでよりきれいに作業することができます。これから行うべき作業のイメージが3Dでわかりやすく表示されるので、先々の段取りができて余裕を持って作業することができます」とオペレーターの渡貴幸氏は語る。

株式会社勇建設 専務取締役兼土木部長 坂元秀樹 氏

株式会社勇建設 オペレーター 渡貴幸 氏

ICT担当ディレクターがキーパーソン

 ICTが浸透している勇建設だが、キーパーソンとなっているのがICT担当ディレクターを任されている工事部の田原嘉代氏だ。ICT担当ディレクターは、事務系スキルとIT技術を駆使して、事務所から現場の業務をサポートするのがその役割だ。田原氏は以前建設業界で働いていたが、結婚・出産を経てほかの業界で働いたあと、建設業界に復帰。現在、同社のICTに関する総合的な窓口となっている。奄美大島は女性の就職先が少なく、その状況を憂慮した勇社長が、一人でも多くの女性を雇用したいと、男女にかかわらず従事できるICT業務に田原氏を登用したのが経緯だ。「入社以来、ICTの業務をずっと担当していますが、それまではICTと無縁のキャリアで、『ICTってなんだろう?』というところから始まりました(笑)」と田原氏は入社当時を語る。

 田原氏はICTに関する情報収集を重ね、導入へと動き、まずはレーザースキャナーやGNSS受信機といった計測に関わるものから採用し始めた。「当時、コマツからマシンコントロール機が発売されましたが、当社にとっては高額で購入できませんでした。ある日、農政局の講習会に参加したところ、マシンガイダンス搭載のレトロフィットキット装着機が紹介されて、『これだ!』と思いました」と、田原氏はレトロフィットキット装着機導入のいきさつを語る。

自社内で図面の3D化を実現

 ICTの導入にあたっては、島内にサポートを依頼できるコンサルタントがいないため「すべて自社でできるようにしよう」と決めていた。田原氏はICTに関するすべてのハードおよびソフトメーカーとの窓口になり、導入を進めていった。また、ディレクターとしてだけではなく、自身でも図面の3D化を担当するなど、技術者としても現場を支援している。「図面の3D化には大いに助けられています。修正にも即座に対応してくれるので、作業が止まることがありません。自社内で3D化しているのは、島内ではたぶん当社だけだと思います」と勇社長は語る。

常にアップグレードすることで時代を先取り

 現在、3台のレトロフィットキット装着機を運用している同社だが、今後も、マシンコントロール機の導入も含めて幅広くICTの可能性を探り、積極的にICTの導入を推進していく予定だ。「今後も、田原ディレクターを中心にさまざまな情報を集めて、時代を見据えた建機の体制を整えていきたいです」と勇社長は抱負を語る。また、勇社長は、就職先が少ない奄美大島において、ICT施工を拡大することで、建設業界の積極的な女性登用にもつなげたい考えだ。常に時代の流れを先取り、企業をアップグレードしていく勇建設。先代の「新しもの好き」のDNAがしっかりと受け継がれている。