ICTが企業の力となり組織のなかに新しい息吹をもたらす

地域でICT施工実績No.1を誇る、邑東建設有限会社。顧客満足度の向上を目指した先にあったICT施工。

区画整理から土木事業へとシフト

 東西に長い島根県のほぼ中央に位置する邑智(おおち)美郷(みさと)町。日本百景としても知られる194kmの長流、江の川が町の中央を流れている。緑豊かな山々に囲まれ、美しい風景が広がるなかに、(おお)(とう)建設有限会社は居を構える。創業は1983年、当初は農地の区画整理を行っていたが、1990年代後半、代表取締役社長の森下道幸氏が、当時下火になりつつあった区画整理から、より多くの利益が見込める土木へと事業転換を図った。その判断が功を奏し、業績は回復。現在は交通インフラの整備改良工事をはじめ、自然災害を未然に防ぐ対策工事などを行っている。

「一手一つ」を理念に展開

 同社の企業理念は「一手一つ(いってひとつ)」。これは、社員全員が一つになって、困難に立ち向かい価値ある事業を行っていくことを意味している。その理念どおり、同社のスタッフは固い絆で結ばれ、スムーズな意思疎通を行い、共通の目標に向けて一丸となって歩みを進めている。また、顧客満足度、および工事品質の向上を目的にISO9001(品質管理)を取得しており、すべての案件で徹底したプロセス管理を行っている。その真面目な仕事ぶりの積み重ねが、同社に対する高い評価へとつながっている。

現場の声に耳を傾けてICTを導入

 ICT導入のきっかけは、現場のスタッフからの働きかけだった。「数年くらい前から、県の発注工事でICT施工が多くなってきていました。この動きは今後更に強まると思い、ICT建機の導入を社長に提案しました」と話すのは、現場を取り仕切る取締役工務部長の宮岡龍輔氏。森下社長はその提案を受け入れ、導入を決断。同社はICT施工へと舵を切った。導入に際しては、現場を任されている4人の従業員が、広島にあるコマツIoTセンタで行われていたICT研修に参加し、ICT建機の機能や操作性について学んだ。

ICT導入で業務の大幅な効率化を実現

 同社で最初のICT建機の導入は2019年。受注者提案型のICT活用工事案件に対応するため、自動制御を行うマシンコントロールを搭載したPC200i-10を、コマツ山陰のグループ企業である、テクノレンタル株式会社からレンタル導入した。「手探りの状態でICT施工を始めましたが、キレイにスピーディーに業務が進んで、これはすごいなと思いました」と森下社長は当時を振り返る。宮岡部長は「図面データの3D化は大変でしたが、一旦データ化してしまえばあとは簡単です。操作も直観的にできました」と語る。

 また、多くの人員を現場に割くことのできない中小企業にとってICT建機は大きなメリットをもたらす。「当社は従業員が10数名しかいないため、少人数で現場を回すことができるICTには大いに助けられています」と、森下社長は話す。

現場の特徴に合わせてICT建機を選定

 現在、同社では山を切り崩し、道路を造成する土木工事を行っている。そこで活躍しているのが、後付けタイプのレトロフィットキットを装備したPC200-10だ。レトロフィットキットは操作の補助を行うマシンガイダンスを搭載している。軟弱地盤であれば、マシンコントロールを搭載したICT建機で掘削しながら整地を行うところだが、地盤が固い岩盤ではブレーカーを使って岩盤を砕き、そのあと、油圧ショベルで作業を進めなければならない。「本来なら、マシンコントロール機のメリットを活かしてスピーディーに作業しますが、この現場は岩盤のためにそうはいきません。レトロフィットキット装着機で位置を確認して指示を出し、ブレーカーで岩盤を破砕します。そして、そこをレトロフィットキット装着機が掘削していきます」と宮岡部長は作業の進め方を説明する。重機担当の町田芳香氏は「さすがにマシンコントロール機のような速さで作業することはできませんが、レトロフィットキット装着機なので、3D図面で全体を俯瞰するように把握できます。作業は効率的に進みますし、計画も立てやすいです」とICTのメリットを語る。また、オペレーターの長畑努氏は「ICT は人員削減に貢献するだけでなく、リスクアセスメントの観点からも有効です。建機の周りの危険な場所に人がいないので、安全な業務を実現しています」と語る。

邑東建設有限会社 重機担当 町田芳香 氏

邑東建設有限会社 オペレーター 長畑努 氏

ICT建機なら年齢やキャリアにかかわらず高精度

 ICTの導入は業務面だけでなく、人材活用など経営面にも大きなメリットがある。「十分なキャリアのない若いオペレーターでも、ICT建機なら高精度な業務を行えますし、一つひとつ現場をこなすことで、自信がみなぎってくるのがわかります」と森下社長は若いスタッフへの好影響を語る。さらに、「ICTであれば、作業中の建機の乗り降りなど、体力的な負担が少なくて済むので、70歳を超えたオペレーターも元気に作業しています」と好影響はベテランスタッフにも及んでいるようだ。

地域社会のために何ができるか

 町内の交通インフラを中心に、地元社会に根づいた案件が多い同社では地域貢献にも積極的だ。毎年行われるカヌー大会では、川沿いの草刈りのボランティアを20年近く続けている。また、地域災害が起これば、すぐ現場に駆けつけ作業を行う体制を常に整えているという。

 現在、若手スタッフたちが中心となって、動画サイトYouTubeで自社チャンネルを運営。現場をドローンで撮影するなど、企業のPR活動を率先して行っている。邑東建設は、一手一つの思いのもと高い結束力を駆使し、次世代を見据えた企業として、日々変革を続けている。