河川での砂利・土採取から始まり、現在では土工一式工事からとび・コンクリート工事・運搬業(大型ダンプ)と幅広く事業展開している加藤建設株式会社。創業は1980年と40年以上の歴史を誇る愛知県豊橋市では有数の建設会社だ。数多くの建機を保有することで優れた対応力を発揮し、お客さまのニーズに応えている。「急な工事の依頼であったり、あるいは災害が発生しても、即座に現場に駆けつける体制を常に整えています」と代表取締役社長の加藤主税氏は語る。東三河地域でこれほどICT建機を保有する会社はなく、その優位性により事業拡大を図っている。
加藤建設がICT建機の導入を推進し始めたのはここ1~2年。当初はそれほど必要性を感じなかったというが、コマツの営業マンから何度も話を聞くうちに、徐々に考えが変わっていったと、加藤社長は当時を振り返る。
2020年10月、まずは従来型建機にICT機能を後付けするスマートコンストラクション・レトロフィットキットを導入した。ちょうどそのタイミングで元請会社がICT指定工事を受注し、加藤建設がICT施工を請け負うことになった。この工事をきっかけとして、加藤建設では積極的なICT建機の導入へと舵を切り、ICTブルドーザー3台(D37PXi-23:1台、D61PXi-23:2台)、油圧ショベル2台(PC200i-11)を導入、ICT施工の体制を整えた。時代を見据えた経営判断が功を奏し、ICT指定工事の受注がみるみる増えた。その後ICT建機をさらに充実させたことで、今では「ICTといえば加藤建設」と呼ばれるようにもなってきた。
導入当初は「作業に慣れるまで大変だった」と監理部長河合洋典氏は語る。「最初はモニターを見ながらの作業は大変でした。しばらくして、モニターは作業を確認するためのツールだと認識を変えたことで、急にスムーズに施工できるようになりました」。
さらに、河合部長は「ICTは動く丁張。走る図面みたいなもの」と言う。ICT建機は、建機自体が現場を把握し、すでに完成形がイメージできている。オペレーターはそのイメージをなぞるように作業を進めるだけ。丁張も手元作業員も必要ない。高精度な作業がスピーディーにできるだけでなく、人員削減にもつながり、大きな生産性向上を実現する。
「ICT導入によって作業効率が1.5倍程度上がるということを聞いたことがあります。当社の場合、正確な数字は把握できていませんが、イメージ的には3倍以上の効果があったと思います。図面データさえできていれば準備は完了。丁張や手元作業員の手配など、さまざまな業務がなくなります。即、現場で実施工が可能となるのです。また、従来であれば丁張掛けした範囲しか作業はできませんでしたが、データであればすべてが施工範囲になります。これまでは点と点を結びつけて作業しているようなものでしたが、ICTであれば面で作業ができます」と河合部長はICTによるメリットを語る。作業する人のスキルや経験に左右されることなく、確実で安定した作業を実現するICT。元請会社の現場監督からもその信頼度は高い。
導入にあたってはコマツのサポートセンターの力も大きかった。「初めてICTを導入した現場では急な対応に迫られ、サポートセンターに何度も電話をかけ、質問してはデータを修正して、また質問して……。それを繰り返して窮地を救ってもらいました。テレフォンオペレーターの方が私の携帯番号を見るのを嫌になるくらい電話したのではないでしょうか(笑)」と河合部長は振り返る。
ICT導入により、現場では手元作業員が不要となり、安全性と効率性を向上させているが、ここが逆に注意すべき点だと河合部長は懸念する。「ICTでは、建機から降りる必要もなく、快適に作業を進めることができますが、『誰もいないだろう』と、安全確認がおろそかになってしまう可能性があります。機能性が向上した分、自分の目でもしっかり安全確認するよう、オペレーターには注意を促しています」。
現在オペレーターは約10名おり、その内ICT建機の操作に慣れているのは3~4名だ。河合部長がオペレーターに操作方法を教えているが、年配のオペレーターになれば、タブレットの電源の入れ方から教える場合もあるという。加藤社長は「従業員は年々高齢化していますが、ICTであれば、高齢のオペレーターでも体にストレスなく作業ができます。また、経験の少ない若い人もベテラン作業員と同様に活躍することができます。若い人は特にICTに興味を持っているという印象もあるので、人材採用に関してもいい影響を生むことを期待しています」と話す。
ICT建機の充実したラインナップを誇る加藤建設だが、今後のICT建機の導入意向について加藤社長に聞いてみた。
「ICTには大いに期待をしていますが、やみくもにICT建機の比率を増やしていくことは考えていません。ベストなのはICT建機が各クラスに2~3台ある状態ではないでしょうか。今後、社会環境は大きく変化し、建設業界は人材の確保がさらに厳しくなると思います。時代の流れを的確に捉え、自社の状況を正確に判断し、長期的なビジョンを視野に入れて建機の導入を検討していきます」。
建設業界の将来を見据え、ICT導入によるメリットを適正に判断し、自社のツールとして使いこなすことが、これからの土木事業に求められている。