贈与を活用した事業承継の手法

掲載日:2025年7月25日

【セミナでのご質問】

私は中小企業の経営者です。
先日決算終了後、顧問税理士に会社の株式の相続税評価額を算出してもらいましたところ、1株あたりの評価額は「6,000円」と言われました。
私は会社の株式2,000株(全株式数2500株の80%)を保有しております。実はしばらく入院治療が必要となり、後継者である息子に会社を譲ろうと考えております。
私の場合、現時点で、どのような方法が最適でしょうか?

【キド先生からの回答】

ご相談のケースでは、「相続時精算課税制度」を使った贈与による事業承継をおすすめします。
この制度は、生前に財産(今回は株式)を贈与しても、その贈与分を最終的に相続時にまとめて精算(計算)するという仕組みです。
令和6年1月から、この制度に「110万円の基礎控除」が新たに加わり、より使いやすくなりました。あなたの場合、以下のような贈与プランが考えられます。

【ポイント①】基礎控除110万円を使って、課税なしで贈与できる
評価額:1株 6,000円
基礎控除額:110万円
110万円 ÷ 6,000円 ≒183.3株
⇒183株分は、贈与税も将来の相続税も不要で、完全に移転できます。

【ポイント②】特別控除2,500万円を使って、残りの株式を贈与
残りの株式:2,000株 - 183株 = 1,817株
評価額:1,817株 × 6,000円 = 10,902,000円
⇒この金額は、相続時精算課税の「2,500万円の特別控除」の範囲内です。
そのため、贈与時に税金はかかりません。相続のときに、他の財産とあわせて相続税を計算する仕組みです。

【まとめ】
あなたの場合、今年中に相続時精算課税を使った贈与を行い、来年の申告で「相続時精算課税選択届出書」を提出すれば、2,000株すべてを息子さんに移すことができます。
この時点では税金が発生しないため、スムーズな名義変更が可能です。

【キド先生のコメント】
「2,500万円の特別控除」は複数年にわたって利用できます。
今回使うのは約1,090万円ですので、残り約1,410万円分(25,000,000円-10,902,000円)は、来年以降に別の財産を贈与する際にも活用できます。
贈与時に税金がかからず、相続のときに一括で精算されるという点で、事業承継の計画を立てやすい制度です。