建設を次世代へと牽引するICTの最前線「Atos Village」

日本初のICT施工特化型施設である「Atos Village」で技術を実践的に学ぶ。

ICT施工に関する実証・教育の場Atos Village

福島県白河市に位置する「Atos Village(アトス・ビレッジ)」は、Atos株式会社が開設した大規模なICT施工に関する実証・教育フィールドだ。約45万m²もの広大な敷地にはDX建設ヤードや研修棟、宿泊棟が整備されており、最新のICT建機を実際の現場環境で検証し、その技術を教育・普及することを目的とした日本でも類を見ない先進的な施設である。

起業のきっかけはICT技術

Atos株式会社は2015年4月、埼玉県加須市に設立され、代表取締役社長は渡邊直也氏が務めている。一級河川を中心とした河川の護岸工事、さらに河川の維持管理といった総合的な河川事業を主な業務としている。同社の設立には、ICT技術が大きな役割を果たしている。
コマツが「Smart Construction」のプレス発表を行ったのは2015年1月だが、その発表以前からICT施工に強い関心を示していた渡邊社長に対して、コマツはSmart Constructionに関する相談を何度も持ちかけていた。そして、渡邊社長を含む多くの現場の意見を吸い上げる形でプレス発表が行われた。渡邊社長はその発表を受けて「ICT技術を活用することで、新しいスタイルの建設業が実現できる」と確信し、起業を決意。プレス発表からわずか3カ月後に、Atos株式会社を設立した。
ICT建機の登場により現場環境は一変し、若い世代だけで現場を運営することが可能となった。「ICT施工では丁張り設置が不要になり、業務が効率化できる点がよく注目されますが、一番のポイントは生産性の向上だと考えています。経験の少ないオペレーターでも熟練同様の作業が可能となり、活躍の場が少なかった若手のみでも品質の高い業務を行うことができます。これにより、同時に二つの現場を進めることができるようになったのです。これを私たちは『生産性200%論』と呼んでいます」と、渡邊社長は語る。
(写真:Atos株式会社 代表取締役  渡邊直也 氏)

現場の意識をいかに変えるか

渡邊社長はICT施工に取り組むなかで、現場の意識が新しい時代の流れに追いついていないことに気づいた。「発注者を含む現場関係者にとって、ICT建機は効率化を実現するツールの一部でしかありませんでした。そこで、ICT施工の可能性を広く伝える必要を感じ、それがAtos Village構想の原点となりました」と振り返る。
同社は2021年に福島県白河市の山林を購入し、「ICT技術を通じて、建設業界と地域社会の未来を切り開く実証・教育フィールドを創造する」ことをコンセプトにAtos Villageの開設に着手。単なる技術研修や技術開発の場ではなく、関連するすべてのステークホルダーと連携しながら革新を生み出す「共創の場」として開発が進められ、2023年から実質的な運営がスタートした。

ICT施工のプロセスを包括的に学ぶ

Atos Villageでは、ICT施工に必要なスキルを現場に近い環境で体験しながら学ぶことができる。研修は、実際の業務フローに即した形で構成されており、受講者は一連のICT施工プロセスを体系的に学習することができる。
メインのプログラムである「ICT実践コース」では、最新の3D測量機を使用した測量技術の習得からスタート。そこで得たデータをもとに3D設計データを作成する。そして、施工現場を再現した環境で、従来型建機、マシンガイダンス搭載建機、マシンコントロール搭載建機の3種類の建機を実際に操作。それぞれの機種のメリットとデメリットを体感することで、ICT施工の有効性を実感する。さらに、施工管理の流れを体験し、出来形評価やウェアラブルカメラを活用した遠隔臨場までを学習。測量・設計から施工、出来形・検査まで、ICT施工の全プロセスを包括的に学ぶことができる。
また、受講者のニーズに応じた「ICT施工特化コース」では、測量や施工技術に重点を置き、現場での実践スキルを強化する。さらに「ICT管理特化コース」では、進捗管理やデータ活用を中心に据え、現場全体の円滑な運営を支えるマネジメントスキルを磨くことができる。これらのコースは、受講者のニーズやレベルに応じて柔軟に対応できる設計となっており、ICT施工を実践的かつ効果的に学べる環境が整備されている。

新世代機「PC200i-12」を使った研修

研修では、2024年12月に発売された3Dマシンガイダンス機能を標準装備した新世代機「PC200i-12」も導入されている。現在はPC200i-12に特化したトレーニングコンテンツを開発中だ。
講師を務めるAtos Village事業開発部 部長の関根篤氏は次のように語る。「測量したデータがどのように活用され、ICT建機がどのように業務を進めるのか、ICT施工全体を学べるのがAtos Villageの大きな特徴です。受講生の層は非常に幅広く、これからICT建機の操作を始めるオペレーターや測量を専門とする会社の方はもちろん、大学で建設を研究する教授まで参加されています。皆さんから『リアルな現場を体験できてよかった』と好評をいただいています」。
また、同じく講師のAtos Village事業開発部 Village運営グループの矢田部愛氏は「ICT技術によって、経験や性別に関係なく誰でも現場で活躍できるようになります。最近では女性の受講者も増えてきています。私自身も、受講されたすべての方が現場で活躍できるよう、日々スキルアップに努めています」と意気込みを話す。
Atos Villageは、単なる技術研修の場にとどまらず、受講者のキャリアや可能性を広げる貴重な環境として機能している。
Atos株式会社 Atos Village事業開発部 部長
関根篤 氏
ハンディスキャナ「GS1」を使った測量講習を行う
Atos株式会社 Atos Village事業開発部 Village運営グループの矢田部愛氏

日本の建設現場を変える

「私たちの思いは『日本の建設現場を変える』という一点に尽きます。ICTを活用した新しい技術を若い世代に伝え、建設業界を未来へと進化させたいと考えています。そのためには、これまでの建設業を築いてきた企業をリスペクトし、私たちのICTの力でその成長を支えていくことが大切です。私たちが育てた新しい人材が、歴史ある企業と共に未来を切り開いていくことが私たちの理想です」と渡邊社長は語る。
Atos株式会社の挑戦は、建設業界の未来を切り開き、ICTの可能性を最大限に活かして新たな時代の扉を開こうとしている。