ICTが建設業界を次世代へと導き石巻の未来を照らす

宮城県石巻市を拠点とする総合建設企業の若生工業株式会社。最新技術で地域社会の発展に貢献する。

90年の歴史を誇る総合建設企業

宮城県石巻市を拠点に、土木と建築を手掛ける総合建設企業として事業を展開している若生工業株式会社。1932年に創業し90年以上もの歴史を誇る。現在の代表取締役社長は四代目の若生翔太郎氏だ。宮城県内の公共事業の元請けとして現場の施工管理を行っている。これまでに宮城県の優良建設工事施工業者表彰を67回、事故防止優良者表彰を30回など数々の表彰を受け、優れた工事品質が特徴だ。2024年には国土交通省の東北地方整備局長より、工事成績優秀企業に2年連続で認定された。
「当社は山、河川、海、道路といったすべてに対応しており、お客さまの声にしっかり応え、堅実かつ誠実に工事を行うことを第一義としています。工事をただ行うだけではなく使い勝手や利便性を追求し、発注者にさまざまな提案をしながら、妥協のない工事を行っています」と、若生社長は語る。
(写真:若生工業株式会社 代表取締役社長 若生 翔太郎 氏)

きっかけは石巻南浜津波復興祈念公園

ICT施工に取り組んだきっかけは、2017年の石巻南浜津波復興祈念公園の工事。石巻南浜津波復興祈念公園は石巻市沿岸部の南浜地区にある公園で面積は38万8,000㎡、東日本大震災による津波で壊滅した住宅街跡地に、犠牲者の追悼と復興祈念を目的につくられた。公園の中には自然の地形を再現するエリアがあり、曲線の法面で構成されるなど施工するうえで複雑な形状となっていた。従来の方法であれば、多くの丁張の設置が必要で、しかも建機の操作には高度な技術が求められる。この現場をいかに仕上げるか。その解決策となったのがICT施工だった。
当時はまだICT施工が普及しておらず、地域で先陣を切る形での導入となった。同社はコマツからICT建機や施工に関する詳しい情報を収集し、導入のための環境を整え、PC200iのレンタルを開始。現場はすぐに慣れ、複雑な盛土整形も効率的に施工することができた。同公園の工事でICTの優れた効率性を実感し、PC200i-11を2台、PC78USi-10を1台購入。本格的なICT施工に乗り出した。
(写真:東日本大震災の記憶と教訓を後世に伝えるために設立された石巻南浜津波復興祈念公園)

作業効率の大幅改善を実現

ICT施工の最大の特長は、丁張を設置せずに設計データどおりの工事をスピーディに行えることだ。これにより作業時間を圧倒的に削減することができる。「現場の大きさによりますが、感覚的にはこれまで3日かかっていた業務が1日でできるようなイメージですね。工事の規模が大きく、複雑になればなるほど、その差は大きくなります」と、若生社長は語る。また、建設部土木課主任の佐藤祐司氏は「ICT施工は、図面を3D化しなければいけないため、3D用のソフトを習得する必要があります。当然、使いこなせるようになるためにはある程度の時間と労力が必要ですが、その準備さえできてしまえば作業効率の大幅な改善が実現できます」と、ICT施工の効率性を説明する。
また作業時間を大幅に短縮できたことで、別の作業に使える新しい時間が生まれた。「ICT施工での効率化により生まれた時間は、イレギュラーで発生した作業の対応に充てることができます」と、佐藤主任は語る。

若生工業株式会社 建設部 土木課 主任 佐藤祐司 氏

経験が浅くても品質の維持が可能に

ICT施工は安全性の向上にも一役かっている。一人のオペレーターが建機で作業を行うだけで完了するため、建機周辺の手元作業員の必要がない。建機周辺に人がいないことで、事故の発生リスクを大きく減らすことができ、安全性は大きく向上する。そして、経験の浅いオペレーターでも高品質な作業が可能となる。「法面整形はオペレーターの技術の差が明確に表れます。その点、ICT施工は誰が作業をしても高品質な仕上がりになります。また、従来はオペレーターが建機から降りて仕上がりを確認し、再び建機に乗って作業する、の繰り返しでしたが、その手間もなくなりました。作業工数の削減に加え、オペレーターの身体への負担も大きく軽減されました」と、建設部土木課主任の新田拓也氏は語る。
若生工業株式会社 建設部 土木課 主任 新田拓也 氏

EARTHBRAIN社とパートナー協定を締結


同社は、コマツの子会社で建設現場の作業をデジタル化するソリューション「Smart Constructionシリーズ」を開発・提供している株式会社EARTHBRAINと、DXスマートコンストラクションパートナー協定を結んでいる。DXスマートコンストラクションパートナーとは、EARTHBRAIN社の目指す「安全で生産性の高い未来の現場づくりに共感し、建設現場のDX化を共に推進すること」を目的とする。同社は、2024年10月にEARTHBRAIN社とSmart Constructionのサービスを包括的に利用するパッケージ契約を取り交わした。「これまではスポット的にサービスを利用してきましたが、今回の契約をきっかけに更なる効率化を実現したいですね。ダンプトラックの稼働状況をリアルタイムで把握できる車両動態管理システム『Smart Construction Fleet』や、ドローンを用いた現況地形の測量や3D地形データ化を行う『Smart Construction Edge』などの活用により、業務がどの程度効率的になるのかとても楽しみです」と、佐藤主任は更なるDX化に意欲をみせる。

ICTが地域社会の活性化を促す

今後一層の発展を目指すためには、地域社会を盛り上げていくことも重要だ。「建設業界の進化によって若い世代の業界に対するイメージも変わるはずです。『この道路を自分たちがつくった!』という達成感を味わえるとともに、業務を通じて地域社会への愛情や誇りを持つことができます。ICTやDXによってこの業界に興味を持ち、地域のために尽力する。そして、万が一の災害時には、『自分たちの街を守るんだ』という気概を持って作業に当たってくれる。そんな若者を石巻で育むためにも、ICT施工やDX化は今後大きな役割を果たしていくと思います」と、若生社長は語った。