酪農家を支え地域社会の発展を推進

TMR製造で酪農を支える有限会社中標津ファームサービス。近隣酪農家のハブとして地域に貢献。

地域の飼料づくりを担うTMRセンター

北海道東部(道東地域)に位置し、南部は根釧台地の丘陵、北部は知床半島から連なる山岳地帯となっている北海道標津郡中標津町。その中標津の酪農家を支えているのが、20061月に設立されたTMRセンター「有限会社中標津ファームサービス」だ。

TMRTotal Mixed Rations)とは完全混合飼料を意味し、牧草などの粗飼料やコーンなどの濃厚飼料のほか、ミネラル、ビタミンなどの必要な養分を、牛の栄養学に基づいた配合比率で混合した栄養バランスに優れた飼料のことだ。TMRの製造は酪農家にとっては負担となるため、複数の酪農家のためにTMR製造を一手に引き受け、酪農家へ供給しているのがTMRセンターだ。TMRに特化した専用の施設で製造することで、品質のよい飼料を低コストで安定的に供給することができる。

ほぼ毎日、1日2回の配送業務

中標津ファームサービスは約1,500 haの草地を有し、19戸の酪農家に向けてTMRを供給しており、対象となる乳牛は約2,800頭にものぼる(搾乳牛が約1,800頭、育成牛が約1,000頭)。朝5時と昼14時の2回、ほぼ毎日配送を行っている。「私はもともと酪農家でしたが、飼料づくりは手間がかかり大変な作業でした。そこで、地域の酪農家のためにTMRセンターを始めました。飼料は私たちがつくり、酪農家は搾乳に専念する。分業することで、業務の効率と精度が向上します」と、中標津ファームサービス代表取締役社長の長渕重樹氏は設立の経緯を語る。

(写真:有限会社中標津ファームサービス 代表取締役社長 長渕重樹 氏)

牧草を発酵させて飼料をつくる

TMR製造の流れを紹介しよう。まず、草地の牧草を刈り取り、それを12㎝の長さに刻みバンカーサイロに貯蔵し、飼料にするために発酵させる。バンカーサイロとは奥行63× 12×高さ2.7mの屋外に設置されたコの字型の飼料貯蔵庫のことで、このバンカーサイロで発酵した牧草をサイレージという。

サイレージをつくるには、刈り取った牧草の空気を十分に抜いた状態で発酵させる必要がある。そのために、バンカーサイロ全体に牧草をならして敷き詰め、その上をホイールローダーが“重し”となって何度も前後進を繰り返す。そうやって牧草の中の空気を抜いて鎮圧し、カバーをかけて発酵を促す。

サイレージには、一番草(6月ごろに刈り取られた牧草)、二番草(一番草が刈り取られたあとに成長し、再び刈り取られた牧草)、そしてコーンの3種類があり、それぞれのサイレージと各種栄養素をミキサーで混合させることでTMRが完成する。

4種のホイールローダーで効率化

同社には、コマツの4種のホイールローダーWA100WA270WA320WA380が導入されており、それぞれに適した用途でTMR製造をサポートしている。WA100は主に醤油粕の運搬に使われている。醤油粕は安価に入手できる高たんぱく・高エネルギーの栄養素で、布状(醤油は布で濾すため、醤油粕は布に付着した状態となっている)で納品される。WA100はその布状の醤油粕を運搬し、貯蔵庫やミキサーへと運んでいる。

同社のWA100は北海道スペシャル仕様だ。アタッチメントのスピーディーな交換を可能にするマルチカプラや、牧草の目詰まりを防ぐワイドコアラジエーターなどが標準装備されており、畜産業務に最適な仕様となっている。

特別仕様のロードメーター

WA270は草地に使用する堆肥の運搬に、WA320はバンカーサイロへの牧草の積み込みに使用されている。そして、バンカーサイロで“重し”となって牧草の空気を抜いているのが、特別仕様のロードメーターを装備したWA320だ。

通常、WA320のバケットの重量計量を行うロードメーターは自動加算式になっているが、これではサイレージの正確な計量を行うことができない。サイレージをすくう際に、固く踏みしめられたサイレージをバケットで崩す必要があり、それにかかる重量すべてが加算されてしまうのだ。そこで、計量したいときだけ計量できる仕様へとロードメーターの仕様変更を行った。「バケットの計量についてコマツに相談したところ、コマツの粟津工場の技術者が直接当センターまで来てくれました。実際の使用状況などを確認し、こちらの要望を聞いたうえで、仕様変更に取り組んでもらいました。おかげで、作業の流れを妨げることのないスムーズで正確な計量ができるようになり、業務の効率化につながりました」と長渕社長は仕様変更の経緯を語る。

WA380は除雪に活躍している。冬場の朝の配送時は、夜中に降った雪が積もり道をふさいでいるため、WA380が先頭を走って除雪しながら配送をしている。積雪が多いときには、配送車が雪で埋まってしまうこともあり、WA380で引っ張り上げることもあるという。

バンカーサイロで作業をするWA320

助け合いが地域社会の発展に

大きさの異なる4種のホイールローダーを適材適所に配するなど、機械化を推進し業務の効率化を図っている同社だが、安全性の確保に対する意欲も強い。「除雪やバンカーサイロでの作業など、私たちの業務は危険と背中合わせです。自動走行や遠隔操作など建機の無人化技術にはとても注目しています。除雪作業などは無人でできるようになれば、格段に安全が確保されます。技術の進化がもたらす安全性の向上が、私たちの業務にもっと反映されることを願います」と長渕社長は話す。

TMRセンターは酪農家のハブとして機能している側面もあり、さまざまな情報が集まる同社は、酪農家にとって頼れる存在となっている。「お互いに助け合いながら、それぞれの強みを発揮して、地域社会を発展させていければいいですね。そして、若い世代が伸びていって、地域社会を支える中心的な存在になってくれることを期待します。そのためにできることは一生懸命やっていきたいです」と、長渕社長は抱負を語る。

施設内の除雪作業を行うWA100北海道スペシャル仕様