ICTの積極的な活用が会社、地域社会、そして建設業界を活気づける

建設業における先進的な経営スタイル。「建設人はかっこいい」から見える建設業の新しいカタチ。

自社内で一貫した施工が行える元請け企業

山梨県南アルプス市に拠点を構える湯澤工業株式会社。主な事業は建設業で、産業廃棄物の中間処理業および木質バイオマス事業なども展開している。従業員数は約60名。社内に十分なリソースを確保し、特殊工事を除き、自社スタッフのみで一貫した施工が行えることが同社の強みだ。

創業は1958年。下請け工事を続けながら経験と実績を積み重ねてきた。2002年に当時、同社の売上げの半分を占める得意先が倒産したのを機に、下請け企業から元請け企業への転換を図った。その後、徐々に組織を強化していき、国土交通省や自治体の案件を受注できるようになった。そして、ICTの取り組みによって成長は加速、2005年の公共工事品確法は、受注拡大につながる一つのターニングポイントとなった。

ICTの取り組みが企業の差別化へ

同社では、i-Constructionが始まった2016年前後から、ICT施工へと大きく舵を切った。「初めてICTのことを聞いたときは『これは面白い! 新しもの好きの当社のスタイルに合っている』と思いました。県内においても先駆的となる取り組みを推進することで、ICTに強い企業としての認知が広がりました」と取締役会長の湯沢基氏は語る。また、代表取締役社長の湯沢信氏は「ICT施工による機能的なメリットにはもちろん期待しましたし、“3K”といわれた旧態依然の建設業界が脱皮し、若い人が興味を持つような業界へと変革を遂げるには、ICTが絶対に必要だと感じました」と、当時を振り返る。
湯澤工業株式会社 取締役会長
湯沢基氏
湯澤工業株式会社 代表取締役社長
湯沢信氏

万全のICT環境を社内に整備

導入に際しては、2014年にコマツの総販売代理店である株式会社前田製作所から、油圧ショベルPC200i-10のレンタル機の提供を受けた。ICT建機を初めて使用し、その有用性を実感。その後、ブルドーザーD61PX-23とD37PX-23の2機を購入し、測量機器メーカーの後付けマシンコントロールシステムを搭載。「整地作業には高い技術が必要でしたが、ICTのブルドーザーなら経験の少ない従業員でもベテラン並みの作業が行えます」と湯沢社長はその性能を高く評価。さらに、PC200i-11を2機購入するなど、現在、11機ものICT建機を所有。地上レーザースキャナーやドローンレーザースキャナーなどICT測量機も取りそろえ、万全のICT環境を整備している。

インフルエンサーによるICT促進

社内にICTを定着させるために湯沢社長が行ったのは、経験が豊富で影響力のある従業員にインフルエンサーになってもらい、ICT建機のメリットを社内に浸透させることだった。「もっとも高いスキルを持つ経験豊富なオペレーターにICTでの作業を覚えてもらうことから始めました。一番技能の高い人がICT建機を使って、まずその効果を実感する。そして、ICT建機でこれまで以上の効率で高精度な作業を実践する。能力の高い人がICT建機を使うとまさに“鬼に金棒”でしたね(笑)。すべての従業員があっという間にICT建機の有用性を理解し、関心を持つようになりました」と、湯沢社長はICTのスピード導入の秘訣を語る。
インフルエンサーを任されたオペレーターの小山毅氏は「操作に関しては、特に難しいことはなく、モニターを見ながらの操作にもすぐに慣れました」と言う。また、導入メリットについては「丁張の必要がないので工程が大幅に短縮されましたし、作業中、建機から降りて仕上がり具合を確認する必要もないので業務負担が大きく減りました。手元作業員も不要で、安全も確保されます。ICTなら、高精度な業務を効率的に行えます。従来機と比べ、とても便利ですね」と語る。
(湯澤工業株式会社 小山毅氏)

図面の3D化は内製

そして、同社のICT施工の定着を促進した要因として、図面の3D化を内製化した点も外せない。同社で図面の3D化を一手に引き受けている湯沢満氏は「すべての現場のデータを扱っているため、自然と経験値も高くなり、技術的にも向上しました。今後は現場が更に増えることが予想されるので、3D化業務も体制を整えて対応していきたいです」と語る。

湯澤工業株式会社
湯沢満氏

充実した学習環境

 業界全体で人材不足が課題となっているなか、同社では離職率が低下し、近年は退職者がいない。その離職率の低さをもたらしているのは、従業員教育だ。
 建設会社における従業員教育は、OJTで行うのが一般的だが、湯沢社長はそれでは不十分だと言う。「従来型の指導によくある“背中を見て仕事を覚える”スタイルには、どうしても限界があります。当社では、座学で行う研修会に重きを置いています」と、湯沢社長は独自の教育方法について語る。

建設人はかっこいいことを多くの人に伝えたい

同社は、業界のリーディングカンパニーとして、若い世代に建設業の素晴らしさを伝える活動を積極的に行っている。高校生や中学生を対象としたICT施工の授業や、ICT建機を使って河川敷に巨大文字を描くユニークなPR活動など、新しい建設業が浸透していくような多彩な取り組みだ。その成果もあり、就職活動の合同企業説明会では、同社のブースに長蛇の列ができるという。「若い人には“建設人はかっこいい”ということを伝えたいです。災害が起これば、いち早く現場に駆けつけ、昼夜を問わず作業を行う。建設人は地域社会を支える大きな役割を担っています。今、現場の最前線にいる我々の使命は、若い人がワクワクするような建設業界をつくって次の世代につなげることです。そういった意味も含めて、建設業界を革新していくICTはとても重要です。今後の更なる技術の進化に期待しています」と湯沢社長は、建設業の未来に向けた思いを語る。

ブランディングを意識した同社のユニフォームには“Show that you're having funと記されている

木質ペレットの製造を行う工場などリサイクル施設も展開