未来の現場をICTで"人財"育成。新たな価値を創造してDXに挑戦する

ICT施工のリーディングカンパニーとして幅広い分野で活躍する北海道・砂子組。 同社が見据える、ICT×建設の相乗効果による新しい可能性とは。

 北海道・奈井江町に本社を構える砂子組は、主に3つの事業を行う。「土木事業」では、全国第一号の「i-Construction対応型工事」を手がけるなど、建設現場においてさまざまなICTの活用を図っている。「建築事業」では、建物の設計や施工など、多くのプロジェクト管理で「BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)」を推進。道内で施工実績300件を突破した。「資源(石炭)事業」では、電力用石炭の露頭炭採掘に取り組み、国内の電力供給を支えている。これらの三本柱それぞれにICTをプラスすることで、作業の効率化、生産性、安全性の向上だけでなく、働きやすい職場環境の整備、人材育成の面でも大きな役割を果たしているという。

社員の声に耳を傾ける、現場ファーストの信念がICT化を推進

 1999(平成11)年、業界ではまだ認知度が低かった情報化・IT化に砂子邦弘社長が注目したのが、砂子組のICTによる事業推進の始まりだ。「初めてICTを知った時、建設業界の未来の可能性を直感した」という。2009(平成21)年には社内に情報化推進検討会を発足。「挑戦してみたい」と手を上げる社員も現れた。「ICTの導入により、労働生産性の向上は当然だが、何よりも作業員の安全性が確保できること。そこに一番のメリットを感じました」と砂子社長は話す。

 しかし、費用対効果がいつ生まれるかわからないICTを推進するのはいかがなものか、という反対の声もあがった。「建設業にとって一番大切なのは現場です。現場がやりたい形で仕事をやれる環境を整えるのが経営者としての仕事だと思います」。砂子社長は頭を下げて、社員に協力を呼びかけた。

 そして、2016(平成28)年、全国初となる「i-Construction対応型第1号現場」にて道路改良工事を実施。同年、ICT施工推進室を創設し、図面の三次元化やGNSS測量、ドローンによる空撮などを活用したICT施工を実践、業務効率化を実現させた。

株式会社砂子組 代表取締役 執行役員社長 砂子邦弘氏

ICTで若者が憧れる建設業の実現を目指す

 「ICTの活用は、リクルート活動にとても有効性を感じている」と話すのは、常務執行役員の砂子晋太郎氏。業界が圧倒的な若手不足といわれる中、砂子組は20代の若者が大きな割合を占めている。ICTへの取り組みが会社全体の強みとなり、特に若者にとっては、汗水たらしてやっていた作業が機械化できるうえ、作業を時短で省力化できるという面も魅力的に映っているようだ。また、離職率についても、「3~5年で採用者の20~30%が辞めてしまう、とこの業界ではいわれますが、弊社はわずか2.1%という割合に抑えられています」と、その効果を語る。

株式会社砂子組 常務執行役員 砂子晋太郎氏

"ICT施工は、土木業界の将来像であることは間違いない"

 「ICTの活用は、土木技術の未来を創造できる最高の手段。間違いなく現場でイノベーションを起こしています」と強く語るのは、土木工事を統括する近藤里史氏。

 2016(平成28)年に実施した、千歳と小樽を結ぶ延長約80kmの「道央圏連絡道路」の改良工事が、全国初となる「i-Construction対応型工事」として国土交通省から認定。それ以降、社内に専門サポート部署として「ICT施工推進室」が発足、知見とノウハウを蓄積する活動に本腰を入れている。

 現在、砂子組ではICTの先にある「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の実現に向け、さまざまなITツールを導入、生産性向上の課題に取り組んでいる。その一つ、移動計測車両による計量システム「MMS(Mobile Mapping System)」では、レーザースキャナーやGNSSデバイス、IMU(慣性計測装置)などを搭載した車両で計測を行い、点群データなどの3Dデータを正確に収集している。実際に延長約5kmの築堤天端敷砂利の施工現場に「MMS」を導入したところ、従来の施工方法では47日ほどかかる見込みのところ14日に短縮。日数も人工も半分以下に圧縮できた。

 2021(令和3)年1月には、遠隔臨場に特化した撮影・配信システム「遠隔臨場 SiteLive」を活用し、道の駅10カ所で同時期に災害用トイレや貯水設備などの設置工事をスタート。動画撮影用のカメラやスマートフォン、ウェブ会議システムを利用し、工事現場と発注者、代理人の3者が同時に、リアルタイムで情報共有することを可能にした。

 2021(令和3)年の春からは「AR(拡張現実)」機能を活用した取り組みにも挑戦している。タブレット端末やスマートフォンなどのデバイスと鉄筋の配筋図の3Dモデルを重ね合わせることで、鉄筋番号ごとに色を変えるなどの処理も可能。これによりリモートで進捗確認ができ、立ち会いも最小限に抑えることができる。

株式会社砂子組 専務執行役員 近藤里史氏

石炭採掘や農業土木の分野でもICTをフル活用

 砂子組が1964(昭和39)年から取り組んでいる露頭炭鉱採掘でも、現在はドローンによる地形データの取得、3D技術による地形や炭層データの可視化、そして「スマートコンストラクション・レトロフィット」を装着した「PC350」を取り入れ、ICTを効率的に活用している。

 また、道内随一の農業地帯である空知地区で圃場整備事業の一翼を担う同社は、厄介な泥炭地層である土壌に対応するため、ICTを活用した新しい客土管理システムを導入した。

 今までの客土工では、土を運搬するダンプカーが到着したら1台ごとに受益者が検印し確認簿を管理、チェックミスも多く発生していた。小運搬においても、積み替え作業や位置出し測量など、さまざまな手間が掛かっていた。そこで大運搬では運搬車両ごとに二次元コードを発行し、リーダーで読み取ることで検印の手間を解消。小運搬ではGNSS受信アンテナを設置し位置情報を取得。それによりモニターで配置位置への誘導ガイダンスを行い、荷降ろしの実績や、搬入とのバランスを自動計算するシステムを採用した。

 さらにこれらの客土管理システムを確認できる情報交換スペース「現場コンシェルジュ」を工区近くに設け、工事の進捗だけでなく、点群データや3D設計、スマート農業の情報など、多彩なコンテンツも完備した。

 空知の現場では、コマツと協同で開発したブルドーザー「D65PX-18(圃場仕様)」の一号機も活躍中だ。大型建機にとって難しい土壌で、一度に多くの剥土作業を可能にし、生産性の向上などに寄与している。

 ICTは現場の安全性向上や工程管理の新たな価値観を生み出すだけでなく、職場環境の整備や人材育成などの面においても、建設業界の明るい未来に向けた起爆剤となっているようだ。