未来の環境と再資源化を意識した次世代型リサイクルへの挑戦

1968(昭和43)年創業の豊富産業グループ。日本有数の金属リサイクル企業として事業を手掛ける一方、新たな技術や事業に積極的に取り組み続けてきた。業界の牽引役として、今後どのような挑戦をしていくのだろうか。

「次なる一手」が業界の未来を切り開く

 今から53年前、"いつか金属リサイクル業を陽の当たる業種にする"という豊富産業グループ代表取締役会長・高倉可明氏の言葉どおり、同社は"常識を覆す発想力"を基軸に、金属リサイクルの技術革新に挑戦してきた。今では豊富産業、三豊工業、日本オートリサイクル、日本総合リサイクルの4社を束ねるグループ会社として、国内外に活動の場を広げている。

 豊富産業グループは、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)といわれるリサイクル業界のイメージを払拭するため、さまざまな取り組みを行っている。その一つは、2003(平成15)年8月開設の日本オートリサイクルと2007(平成19)年7月開設の三豊工業追分工場に代表される、国内初完全屋内型リサイクルプラントである。4重の防音対策を施すことで、周辺地域への音や臭気の漏れ、粉塵や油の流出を防ぐ、環境に配慮した仕組みだ。豊富産業の代表取締役である高倉康氏社長は、「完全屋内型工場にすることで、地元の方々だけでなく、取引先の皆様からの評価が変わり、従業員にも大きな自信と誇りが生まれました」と話す。

 同時に、仕分けなど従業員のマンパワーに頼っていた業務の機械化も速やかに進めた。コマツ粟津工場と共同開発した「PC78US-10 マルチリサイクラ」の導入がその代表例だ。重機オペレーターの黒川智志氏は「細かい作業がスムーズにできるようになりました。開閉式のクランプアームも挟みやすく、ハーネスリッパを使えば、コードの引き裂きも簡単にできます」。作業効率だけでなく、安全性も大幅に向上したと話してくれた。

  • 豊富産業株式会社/日本総合リサイクル株式会社 代表取締役 高倉康氏 氏
  • マルチリサイクラの共同開発で現場の陣頭指揮をとった、日本総合リサイクル株式会社 執行役員工場長 金瀬和幸氏
  • 重機オペレーターの黒川智志氏
  • 完全屋内型工場プラント

技術や知的財産は業界全体の発展のために

 廃棄されたものを100%資源化することがリサイクル産業の使命と考えた豊富産業グループは、新たな技術を追求し続け、国内外で約70件の特許を取得している。

例えば、自動車解体において、屋内工場で電動式のマルチ解体機を用いて一方通行で素材や部品ごとに細かな選別を行う「重機リレー解体方式」は、現在、国内だけでなく海外の自動車解体業者も取り入れている。設備投資費や導入コストは高額ながら、作業効率を格段にアップさせ、部品や材質ごとの繊細な分別を可能にした。この解体方式の特許は、リサイクル業界のレベルアップにつながれば、との思いから無料開放に踏み切った。「新しい技術が業界のスタンダードモデルになれば、従業員の安全性を確保するだけでなく、現場もきれいに保て、3K職場からの脱却にもつながります」と高倉社長は語る。

 また、2013(平成25)年には、大型車両をプレスして解体する「スクラップ剪断機」でも特許を取得。鉄道車両であれば月約100台の処理を可能にした。

 "リサイクル業界のイメージを変えていきたい"という豊富産業グループの取り組みは、国内の同業他社だけでなく、異業界や海外からも注目され、さまざまな方面に影響を与えている。

オンリーワンの解体技術を世界標準に

 豊富産業グループが、次なる一手として挑戦しているのが航空機の解体事業だ。20~30年のフライトを終えた航空機の機体には、有用で高品質な金属が多く含まれている。現在退役した航空機のリサイクルは、エンジンや計器類など主要部品を取り下ろした後、屋外で内装部品を手作業で撤去。その機体はそのまま放置に近い状態で駐機され、今後、アジアだけでも年間約300機ずつ増加するという。同社では鉄道車両リサイクルの解体ノウハウをベースに、2014(平成26)年に、航空機をプレスして剪断する機械と解体方法を開発。日本初の退役航空機のリサイクル事業への参画を目指している。

 豊富産業の専務取締役である石原潤氏は、「リサイクルは物を廃棄するのではなく、素材や原料を生み出す製造業であるべき。これからは金属のリサイクルだけでなく、通常の生活においてもリユース・リサイクルの意識を持ち続けることが大切です」と話す。豊富産業グループでは、処理、解体、再資源化を自社グループ内で完結できる、次世代型の循環型リサイクルシステム=リサイクルプラントを構築することを目標に掲げている。

豊富産業株式会社 専務取締役 石原潤氏
鉄やアルミ、金属やプラスチックを種類別に再資源化

油圧オートカプラが「ワンオペ」×「短時間」を実現

 豊富産業グループの一社、三豊工業は2005(平成17)年に設立された。同社では、大型スクラップ処理をメインに、産業廃棄物の収集・運搬・中間処理(破砕選別)などを行っている。

 鉄スクラップの集荷の中継拠点である三豊工業新川支店では、コマツの国内一号機となる「PC220LC-11 油圧オートカプラ付金属リサイクル仕様車」を導入。この機体の特徴は、今まで最低でも二人で約1時間かかっていた油圧ショベルのアーム先端に装着するアタッチメントの交換作業*の時間を大幅に短縮でき、しかも一人で行えること。油圧で作動するグラップル・自動車解体用アタッチメントは1分以内、電気ケーブルの接続が必要なマグネットアタッチメントは3分程度で交換が可能になった。今回、同社が導入したアタッチメントは、油圧開閉・回転式の金属スクラップ用グラップル(オレンジグラップル)、自動車解体用金属切断・部品掴み機(CSハンドラ)、強力な磁力で金属を吸着可能なマグネットの3種類である。

 重機オペレーターの土肥氏は、「今まで複数人でやっていたアタッチメント交換が一人でサッとできるようになりました。キャブの昇降もスムーズなので、作業効率が格段に上がりましたね」と語る。

 また、今までは作業目的ごとに建機を乗り換える必要があったが、一台3役の本機を導入したことで、大幅なスペースの削減につながったことも大きいという。

*アタッチメント及び油圧ホースの脱着

運転席から降りずにアタッチメントの交換が可能
CSハンドラ①
CSハンドラ②
マグネット
オレンジグラップル
石原専務(左)と、オペレーターの土肥氏(右)